最終話

【響視点】


家に帰りついて、突然スマホが鳴り出した。誰かから電話が来たようだ。たまたまだろうが、狙っていたかのようなタイミングだった。


スマホの画面を確認してみた。しかし、見覚えのない番号だった。誰からか分からないのに出たくはなかったが、何が目的なのか分からないので、一旦出てみることにした。


響「はい、もしもし」


???「こんにちは、探偵さん」


響「っ!?」


聞き覚えのある声だった。嫌な記憶が蘇った。


???「久しぶりですね。恐怪島の後以来でしょうか?」


響「…………そうだな」


???「あれー?なんだか怖い口調になりましたね。どうかしたんですか?」


響「なんでもいいでしょう」


???「あ、やっぱり元に戻しちゃうんですね。単純で可愛いなあ」


響「チッ」


???「おお、怖い怖い。落ち着きましょうよ」


響「うるさいな。それより、答えろ。誰だ」


???「誰かって?どうしてそんなことが知りたいんですか?」


響「いいから答えろ!」


一織「響、さん………?」


響「っ!?一織ちゃん!?」


一織「どうかしたんですか?」


響「いや、これは……」


???「あ、今1人じゃないんですね。もしもーし、私の声、聞こえますかー?」


一織「…………」


???「聞こえてないか。じゃあ、スピーカーをオンにしてくださいよ。日野 響さん」


響「っ!?どうして私の名前を!?」


???「えー、忘れちゃったんですか?前に電話した時も名前は呼んでますよ。酷いなー。それより、早くスピーカー!」


私は、言われるままに電話のスピーカー機能をオンにした。


響「変えたぞ」


???「ホントですかね?もしもーし、聞こえてますか?聞こえたら返事してくださいね、月影 一織さん」


一織「え?どうして私の名前を知ってるんですか?」


???「存じ上げておりますとも。だって、あなたたちに散々邪魔されてばかりなんですからね」


響「邪魔?」


???「ええ。人造人間。軍服の人魚姫。黒い天使・アズリエル。そして、ローゼ・ナイト。ここ最近で、あなたたちが暴き出した、殺人事件の犯人ですよ。それに、こちらは全く関与していませんが、人喰い蜘蛛や侵略者(インベーダー)なんかもそうらしいじゃないですか」


響「どうしてそれを知ってるんだ!?」


???「こちらはプロですからね。そもそも、最初の4人に関しては、私の大事な子供だった人たちなので、ね?」


一織「プロって?」


???「嫌な話でしょうけど、私は殺人事件の計画を考え、提供するという仕事をしているんです」


やっぱり、私が思った通りだ。


響「なるほど。ようやく確信した」


???「何がですか?教えてください!」


響「あんたの正体だ。殺人事件を考えるなんて仕事、他に聞いたことがない」


???「ほう。では、誰なんですか?私は」


響「逢瀬。それが、あんたの名前だ」


一織「おうせ?…………もしかして!?」


逢瀬「すっごい!大正解です!そう、私こそが逢瀬の正体です!」


逢瀬。3年前に起きた「煉獄の塔事件」というホテル火災の後から噂が流れ始めた、殺人事件の多くに関わっているとされる謎の人物だ。


いくつもの連続殺人を起こし、その多くで難解なトリックを使い、捜査を複雑にしているという噂が立っている。それに、現在の日本における殺人事件はほとんどこいつの知恵が入っているとか言われている。


逢瀬「バレてしまったからには、潔く認めないとね」


響「どうして電話なんかいきなりかけてきた?」


逢瀬「あなたたちに対して、クレームを入れに来たんですよ」


響「クレーム?」


逢瀬「あなたたちねぇ、こちらがどれだけ苦労して毎回毎回計画立ててると思ってるんですか?それをさも当然かのごとく解決して。これだから探偵が嫌いなんですよ」


響「そんなの、こっちに言わないでくれ。知らないから」


逢瀬「そうですか。あー、でも、今回のは犯人の子がちょっとダメダメすぎたかもなー」


響「…………………は?」


逢瀬「ボロを出して犯人だとバレるなんてご法度もいいところですよ。しかも、殺そうとした相手に殺し返される?ありえない!」


一織「そんな!乙葉ちゃんは!」


逢瀬「なんですか?自分で犯人だと証明しておいて、今更擁護しちゃうんですか?正義かなんかのつもりですか?バカバカしいですね。笑えすらしませんよ。一発屋の芸人のギャグの方が何倍も面白いです」


一織「それは…………」


逢瀬「そもそも、私の用意した台本は完璧なものでしたよ。それなのに、あの子ときたら。演劇部だっていうから、せっかく演技力に期待を込めて『死んだ弟のふりをする』なんて指示を用意したのに、バレちゃってて。


私、演劇を見てて思うんです。『本当に優れた役者は、舞台を支配にし、台本を支配し、観客の心を支配する』って。このぐらいのことができない役者は一流なんて呼べません。


乙葉さん、でしたっけ?あの人は……三流ですらない。才能が無さすぎます。そんな人の演技なんて、つまらないんですよ。本当にミスキャストだ。あれじゃあ感動の超大作なんかできませんよ。まったく、台本を考えてあげたこちらの苦労も知らないで」


一織「あなた、そんな言い方は…!」


響「はぁ、呆れた」


逢瀬「呆れた?」


響「あぁ。あんたは相当自信があったみたいだが、今回の殺人劇、むしろ役者は一流だ。台本がつまらないんだよ」


逢瀬「へぇ?言ってくれますね。しかし、簡単に犯人だとバレてしまった以上、一流とは言えませんよ」


響「そこだよ。今まで相当な数の殺人事件を起こしてきたんだろ?そのせいであんたは傲慢になってるだけだ。今回の事件、人間関係さえ把握してしまえば犯人の正体なんか簡単に絞れてしまうんだよ。実際、一織ちゃんはそれで疑いをかけていたわけだし」


逢瀬「……ほう?言いたいことはそれだけですか?」


響「あぁ。そっちは?」


逢瀬「そうですねぇ。やっぱり、あなたを殺し損ねたのが悔しくて仕方ないですね」


一織「え!?」


響「殺し損ねた……?」


どういうことだ?私は逢瀬とあったことがあるのか?


逢瀬「ん?……あぁ!そうか!あの時頭を強打したんでした!だったら、記憶喪失してもおかしくないですね。あ、電話かけてもすぐには正体に気がつかなかったのってそういうことか!」


響「どうして記憶喪失のことを知ってるんだ?」


逢瀬「知りませんよ。むしろ、今そのことを知って驚いてます」


響「…………それで、何が言いたい?」


逢瀬「ま、殺し損ねたなら、もう粘着しませんよ。ただ、こちらの邪魔はしないでくださいね。探偵さんたち」


そう言うと、電話を切られた。


一織「…………」


響「…………」


私は無言で立ち上がった。


一織「響さん!?どこに行くんですか?」


響「いや、ただ自分の部屋に行くだけだよ」


一織「そうですか………」


一織ちゃんは不安そうな様子だった。やっぱり、記憶喪失と何か関係があるのだろうか?


きっと、危険なことには間違いない。しかし、私は覚悟を決めた。逢瀬の正体を自分で暴き出すと。そのためなら、私は命さえも惜しまない。












逢瀬「まったく、性格が丸くなったかと思えば、結局のところ癪に障る人のままだ。次こそはしっかりと殺さなければ。


さて、今回はここら辺で幕を下ろしてしまいましょうかね。今度はもっと凄惨な舞台で、あの2人を迎えるとしましょうか。フフっ、楽しみだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

断罪の探偵 6 青薔薇の殺人鬼 柊 睡蓮 @Hiragi-suiren

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ