第18話

【犯人視点】


目が覚めた私は、知らない建物の中にいた。少なくとも、自分の家でなければ、車の中でもないことはよく分かる。じゃあ、ここはどこ?


乙葉「うっ!」


頭が痛い。そうだ。お父さんもお母さんも見当たらない。どこだ?どこにいるんだ?


改めて、部屋の様子をじっくり観察してみた。部屋には見慣れたものは何もなかった。しかし、病院のような雰囲気もない。まるで、誰かの家にいるかのような、そんな感じだ。


その時だ。ドアをノックする音が聞こえた。


乙葉「はーい。誰ですか?」


???「っ!?ちょっと待ってて!」


乙葉「え?え?」


驚いた。いきなり待てと言われたこともそうだが、そんなことは正直どうでもよくなった。それよりも驚くべきは……


乙葉「…………先、生?」


目の前に現れたのが、私の部活の顧問の先生、高塚 拓海だったことだ。


拓海「よかった。ようやく目が覚めたんだ」


乙葉「待ってよ、先生。ここはどこなの?それに、どうして先生が?」


拓海「実は……ここは、僕の家なんだ」


乙葉「……………………え?」


先生の家?何の冗談なの?


乙葉「ちょっと、意味わかんないんだけど!?なんでこんなとこにいるの!?」


拓海「それは…」


私は、確か、輝也が死んだのを見つけて、お母さんに車の中で首を絞められて、それで…?


乙葉「…ねぇ、お母さんたちは?」


拓海「お母さん?」


乙葉「お母さんたちはどこにいるのかって聞いてんの!ねぇ、どこなの!」


拓海「…………もう、いないよ」


乙葉「…………は?」


いない?どういうこと?何言ってんの?


拓海「実は………3日前、とある自動車が海に飛び込む現場を、たまたま見てしまったんだ」


乙葉「自動車………?」


まさか、そんなはずは……!


拓海「それで、慌てて通報して、なんとか助けようとしたんだけど、ダメだった。その車に乗っていた人は、みんな死んでしまったよ。日向さん、君を除いて」


私を除いて?そんな、そんなことって……。


乙葉「そんなの、嘘よ……だって、だって!」


拓海「……」


乙葉「そんなの…そんなの…!うっ、わぁぁぁぁぁぁん!」


現実を受け止めることができず、涙が溢れてしまった。私が泣いたのは、人生の中で、この時で最後だ。


どれだけ泣いたのかも分からなかったが、すっかり外も暗くなっていた。それに、雷がどこかで落ちながら大雨が降り続いていた。私の心が映し出されたかのような天気だった。


それから、先生は毎日私の世話をしてくれた。私は、生活に不満を感じることはなかった。しかし、同時に、すべてがどうでもよくなるような、そんな感じの気分だった。先生は私に外出しないように言ったが、そんなこと、言われなくてもしない。そんな気分じゃない。


目を覚ましてからまた3日経ったころ、気持ちの整理を無理やりつけることに成功した。それと同時に、私はようやく事のおかしさに気がついた。


先生が私を自分の家に入れたのもそうだが、それよりも、それだけの出来事がまるで話題にならないことがおかしい。1週間ぐらいはニュースで取り上げられてもいいほどのことなのに。


その夜、先生が夕食を持ってきたタイミングで質問してみた。


乙葉「先生、質問させて。なんで私たち家族のやつがニュースで全然見ないの?自殺からの一家心中だよ?」


拓海「あぁ、それは…」


先生は、なんとなく気まずそうな様子だったが教えてくれた。


拓海「実は……うちが大金を払って、各地に情報を伏せてあるんだ」


乙葉「情報を伏せた?」


拓海「心中はニュースとして取り上げられたけど、死んだのは両親だけってことになっている。世間的には、子供はどっちも生きてて、孤児院に預けられたことになってる」


乙葉「ふーん……ありがとう。教えてくれて」


そうか……。世間的には輝也もまだ生きてるんだ……。そう思うと、ちょっとだけ気持ちが晴れてきた気がした。


私は、日中は勉強もしつつ、先生がくれた(多分昔使ってた)ノートパソコンやスマホで色々なことを調べていた。そこで、興味深いものを見つけた。


乙葉「殺人事件を、裏で操る真の殺人鬼?」


都市伝説というか、オカルト的というか。簡単に信じられるものではないと思った。あの電話がかかってくるでは。


乙葉「電話?誰からだろう………もしもし」


???「やぁ、ごきげんいかがですか?」


声を聞いて、私はすぐに警戒心を強めた。人間の喉から出るような声じゃない。ボイスチェンジャーか何かを使っている。


乙葉「えっと、どちら様でしょう…」


???「まぁ、誰でもいいじゃないですか。それより、あなたに1つお話が」


乙葉「話?」


???「復讐、してみませんか?」


乙葉「………ふくしゅう?」


何を言ってんだろうか。あ、もしかして、先生が勉強させようとどこかの家庭教師にでも相談したのかな?


???「聞きましたよ。あなた、家族がみんな死んじゃったんですってね」


乙葉「え?どうしてそれを?」


???「詳しくは言えませんけど…まぁ、こちらもプロですからね。このぐらいの情報、ちょっと頑張ればすぐにゲットできるんですよ」


怖い。なんだか、相手してはいけない人な気がする。


???「原因が分からないとはいえ、弟は自殺、両親は心中。まあ酷い。あまりにも可哀想です!」


乙葉「そんなの、あんたに分かるわけないでしょ!」


???「あれあれ?どうしてそんなに怒っちゃってるのでしょうね?」


乙葉「そ、それは…」


???「それに、私は知っていますよ。あなたも、弟も、部活でいじめられたんでしょう?」


乙葉「っ!?」


???「いいんですか?悔しくないですか?」


乙葉「……………」


???「家族の無念、晴らしたくないですか?」


乙葉「……………」


???「あんなクズ野郎ども、生かしてていいんですか?」


乙葉「……………」


???「いかがですか?復讐をする気になりました?」


乙葉「……………やる」


???「おお!やる気になってくれましたか!いやー!嬉しい嬉しい!」


そうだ。家族がみんな死んでしまった以上、あいつらに復讐できるのは、私しかいない。


???「それじゃあ、あとはメールでやり取りしましょう。これなら、誰かに聞かれなくてもいいですからね。それでは」


その日から、ちょっとずつ計画をまとめていった。相手が誰かは分からないが、とても親切にしてくれた。あんなに警戒しないでよかったみたいだ。


部活で新たにやる劇があること、たまたま近い時期に部活の合宿があることを伝えた。すると、何か思いついたらしく、私にいくつもの資料をまとめるよう言ってきた。先生にバレないようにするのも大変だった。


部員について、合宿を行う建物について、去年の合宿について、家族の死因について、その他のものも大量に作った。疲れる作業だが、意味はあった。


???「『ローゼ・ナイト』ですか。読みましたよ。なるほど、面白そうですね」


乙葉「どうして?」


???「それは言えません。が、私、考えつきましたよ」


乙葉「考えついた?何をですか?」


???「いい復讐の方法をですよ。この間の、部員についてまとめた資料、あれも込みで、いいトリックがあるんです」


乙葉「教えてください」


その人が言うには、私が輝也になりすまして参加し、男子部員を殺してその濡れ衣を同級生の下野 秋に着せればいいらしい。ざっくりとまとめたが、とてもいいことを教えてもらった。


乙葉「私が、輝也に……」


???「演技は得意分野だそうなので、それを生かしたトリックになっております。どうですか?」


乙葉「………やります」


次の日、私は、自分で髪を切って輝也の髪型に近づけた。鏡に写っていたのは、日向 乙葉ではない。日向 輝也そのものだ。


そして、私は密かに決意を誓った。


乙葉「輝也、一緒に行こう」

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