第17話

【犯人視点】


私は、小さなころからずっと演劇をしていた。いつか見た劇に感動して、私もあんなふうになりたいって、ぼんやりとした将来の夢があった。だから、5歳のころから演劇をしていた。


小学6年生のころ、テレビでとある俳優さんがインタビューを受けていたのを見た。「あなたの演劇人生において、特に影響が大きかったものは何ですか?」という質問に、このように答えていた。


俳優「中高の演劇部の経験ですかね。ほら、雨渦学園ってあるじゃないですか。実は、僕、そこ出身でして。あそこ、文化系の活動に力入れてて、それがきっかけですかね、この業界入ったのも」


そのインタビューに感銘を受けて、私もそこに入学したいと言った。乙葉がしたいことなら、とお父さんもお母さんも許してくれた。


入学して、私は迷うこともなく演劇部に入部した。当時は3年生しかいないせいで廃部ギリギリだったらしく、私が入部したと言ったらとても先輩たちが喜んで迎え入れてくれた。


その後、同級生が4人さらに増えた。廃部は余裕で回避できるようになった。それに、部活は人数が多い方がいいだろうし、楽しくなると期待していた。


しかし、大きな問題が発生した。私の演技力が高すぎたのだ。どうしても、才能というものは大きく影響を与える。それに、他が部活動から演劇を始めた一方で、私は舞台の経験も豊富だ。私の演技力の高さは誰が見ても明らかだった。


それをきっかけに、だんだんと同級生の私に対する態度が攻撃的になっていった。暴力なんかは振るわれてはないが、言葉で徹底的に私を傷つけようという意志を感じた。


はっきりと言えば、いじめだ。私はいじめの標的になったのだ。理由は、ほぼ間違いなく私の演技力だ。嫉妬しているのは、いじめられる側にしてみればすぐに分かってしまった。


もっとも、私に対してはっきりそんな態度を示したのは石見ぐらいだ。若狭と近衛は石見に脅されていたという感じだったし、下野はそれを止められないという様子だった。


相手が子供なだけだ、と私は頑張って無視し続けていた。正直しんどかったが、ここで折れたら相手に負ける気がした。それは悔しいので避けたかった。


そんな私だが、家族は応援してくれた。特に、弟の輝也なんか、私が将来どれだけ大物になったとしても、これ以上はいないんじゃないかと思うほどの熱心なファンだ。


輝也「姉ちゃん!今日もすごかった!」


乙葉「ありがとう。ほんと、私の1番のファンはアンタだよ」


父「そうそう、乙葉、今日な、輝也が雨渦学園に入学したいって言ってきたんだよ」


乙葉「へぇ〜、雨渦学園に……はぁ!?」


輝也「姉ちゃん見てたら、演劇部に憧れちゃってさ。ダメ、かな…?」


乙葉「ダメじゃないけど…」


まずい。私の弟ということがバレたら、間違いなくいじめの標的に合う。それは避けたかった。


輝也はとてもいい子だった。それに、頭も良かった。しかし、メンタルがあまりにも弱すぎる。子供扱いしてるのもあるけど、メンタルが弱いという点において、疑う余地はない。


どれだけひどいかと言うと、ドッヂボールでボールをキャッチできなかっただけで泣きそうになるレベルだ。こんな子、いじめの標的にできない。姉として守らないといけない。


どうせなら入学しないのが1番良かったが、ちゃんと入学してしまい、ちゃんと演劇部にも入部してしまった。しかも、私の弟だってハッキリと言ってしまった。


それだけでも私は怖かった。しかし、さらに恐ろしい事実が判明した。私を遥かに上回るほどに、輝也は演劇の才能に恵まれていた。私が何年も努力して得たようなものを、ほんのちょっとの練習で身につけた。


そして、やっぱりいじめられた。それに、私に対してのものよりもさらに悪意があった。弟を仲間だと認めていないことも、さらに悪化した嫉妬のせいでまともな判断ができなくなっているのも、私には分かった。


私はだんだんといじめられなくなった。その分が弟に向かった。家族だから、ずっと身近で見ていた。そのせいで、分かってしまったのだ。弟がだんだんと精神を病んでいく様子が。


乙葉「輝也、最近大丈夫?」


輝也「…………」


乙葉「輝也……?」


輝也「………あ、ごめんごめん、全然大丈夫だよ。ありがとう」


こんなに「ありがとう」と言われて嬉しくなかったのは初めてだった。


輝也は、頭の良さと演技力を利用して、いじめに対しても気にかけないような態度で過ごしていた。しかし、家に帰ってからしばらくすると抑えていたものが溢れて、急に泣き出したりした。


さらに追い討ちをかけるように、大会の話が出てきてしまった。3年生がいないのもあり、2年生が優先的にいい役を貰えると思っていた。しかし、現実は違った。


拓海「じゃあ、『ローゼ・ナイト』は、輝也くんにやってもらおうかな」


先生の独断によって決められた大会の配役、これが不満のピークを迎えさせたのだ。


文也「はぁ、残念だなぁ。役貰えないなんて」


春彦「しょうがないだろ。相手はあいつだぞ?勝てるわけないだろ」


悠真「クソっ!あの野郎、マジでイライラするんだよ!」


文也「落ち着きなよ」


悠真「あ?なんだよお前?俺はお前のために怒ってやってんだよ」


文也「………」


悠真「あぁぁぁ!ホントイライラすんだよ!マジでさ、あいつ、さっさと死んでくれねぇかな」


春彦「おまっ、なに言ってんだよ!?」


悠真「は?お前らも思ってるだろ?あいつ、1年のくせに調子のりすぎなんだよ。どうせ、あいつは心の中で俺たちバカにしてんだからよ!」


違う!輝也はそんなことしない!輝也は…!


………なんて、言えてたらなぁ。


輝也は、次の日の学校をサボった。私は学校だし、理由が理由だから両親どちらも仕事に行った。1人にして大丈夫かと、ずっと不安だった。


その日は部活がちょっとだけ早く終わった。急いで準備を済ませて、できる限りの速さで走って帰った。


家のドアを開けた。私は、すぐに感じ取った。異様な気配がする。足を震わせながら、輝也の部屋に向かった。


そこで見たのは、首を切って自殺した輝也の死体だった。


乙葉「輝也…………………?」


もう、全てが理解できない。弟が?死んだ?


すると、リビングから両親が出てきた。


父「乙葉…」


乙葉「お父さん!これって…」


母「輝也…………輝也…………」


父「……先に、2人は車に乗ってくれ」


そう言われたから、私はお母さんと一緒に車の方に向かった。その時だ。急にロープで首を絞められた。


乙葉「お、お母さん………?」


そのまま、私は意識を失った。

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