第16話

【一織視点】


乙葉「……え?」


響「ちょっと、どういうこと?ここにいるのが、輝也くんじゃなくて乙葉さんだなんて…」


秋「そんな…何かの間違いでは…?」


一織「いや、この事件、犯人は乙葉ちゃんしか考えられない」


乙葉「そんなわけないじゃん!ふざけないでよ!」


一織「ふざけてはないよ。真面目に言ってる」


蓮花「どういうこと?乙葉ちゃん『しか』考えられないだなんて」


一織「さっき言いましたよね?秋ちゃんは架空の犯人に仕立てあげられたって」


響「それとこれと、どういう関係が?」


一織「前提として、架空の犯人に仕立てあげることができるのは、秋ちゃんだけなんですよ」


秋「私だけ…?」


ここで、犯人が本来なら秋ちゃんしかいないという根拠をまとめてみましょう。


・女子用の風呂場に入れる

・照明バトンを使うことができる


少なくとも、この2つの条件は満たさないといけません。この時点で、ほとんどの人は候補から外れます。例えば、1個目の条件は男子にはできないと考える根拠になります。


それに、秋ちゃんの発言から考えると、蓮花さんがどういう人間なのかを1年生の演劇部の部員は知らなかったということになります。そうなると、性別が分からない以上は自分が行う偽装工作に相手が合うか分からない。もし男性なら、不可能だとすぐに分かる。それでは偽装工作の意味がありません。


これらのことから、秋ちゃんが架空の犯人になったと考えたのです。


一織「さて、ここから、どうやって3人が殺されたのか、もっと詳しく話していきましょう」


蓮花「3人の殺し方…?」


一織「殺し方というか、犯人が行った工作は、これだけではないんです」


まな「どういうことですか?」


一織「思い返してください。私たちが悠真くんの死体を発見したときの状況を」


蓮花「あのときは、確か、舞台の鍵がかかってたから、私が取りに行って…」


一織「そう、舞台には鍵がかけられていた。しかし、そこには犯人はいない」


芹菜「どういうことです?」


一織「つまり、犯人は舞台を密室かのように見せかけようとしたんですよ」


乙葉「………」


一織「恐らく、これは犯人が想定していなかった可能性があります。『スペアキーを持っている人がいる』ということをね」


響「なるほど。そういうことか」


蓮花「そういうことって?」


響「そのことを犯人が知らなかったのは、スペアキーがあるのが舞台だけだったからでしょうね。キーハンガーがあるくせに、私がついさっき見たときには1本もなかった。各個人の部屋にはスペアキーがないから、きっと舞台にもないと思い込んでいたんです」


一織「だから、犯人も気がつくことができなかったんです。それに気が付かないで、舞台を密室にしてしまった」


乙葉「だから何?それが僕が犯人だっていう証拠にでもなるの?」


一織「まぁ、誰でもこれはできるんだけど。もし以前来たことがあるなら、2年生なんかは疑わしくなるけど」


響「それじゃあ、その鍵の隠し場所は?」


一織「私もびっくりしましたよ。まさか、死体に飲み込ませていたとはね」


芹菜「死体に……?」


まな「飲み込ませた……?」


響「死体に飲み込ませておけば、鍵がなくなってしまうから、舞台の様子は見れなくなる。鍵がどこにあるかを勘づかれるまでは時間が稼げる」


一織「その間に悠真くんか秋ちゃんが犯人だとでっちあげればいいんです」


乙葉「…………」


一織「さらに、春彦くんや悠真くんの部屋の鍵を閉めた後で飲み込ませれば、どうでしょう?これまた、時間稼ぎに使えるんです」


響「しかし、ここに至る過程で、犯人はある証拠を残してしまった」


蓮花「証拠?」


響「風呂場へと繋がる血痕がついてしまったんです。きっと、春彦くんを先に殺しておいて、その後で風呂場に沈めて、ってところでしょうところが、その死体を運ぶという作業において、犯人が死体を引きずりながら運んだんでしょう」


乙葉「だったら、どうしてそんなことが言えるの?」


響「見たからね。春彦くんの頭部に分かりやすく傷がついていたのが」


乙葉「そんなわけないでしょ!?だって、グラスで殴ったのに!?」


響「グラスで?そんなこと、今初めて知ったよ?」


乙葉「はぁ!?だって、そうじゃなきゃ、文也の首の傷も…」


響「え?あれって、春彦くんを殴った後で凶器にしたの?グラスだとすれば、明らかにガラス片が少ないとは思ったけど。それに、いつの間に見たの、そんなの」


秋「いや、私たち、ずっとここにいたので見れないはずなんですけど…」


響「ほら、どうなの?」


あーあ。ホント、私も響さんも性格が悪い。追い詰め方が怖いんですよ。


響「つまり、犯人は先に春彦くんをグラスで殴り殺して、そのガラス片で文也くんを切り殺したと。あれ?グラスで殴った程度で死ぬか?」


一織「分かりませんよ。気絶した後で運び出したら、階段で頭をボコボコにされて、脳出血で、とかかもですし」


響「なるほど」


すると、芹菜ちゃんが急にこんなことを言い出しました。


芹菜「でもでも、だったら下着はどこにあるんですか?昨日、かばんまで探したのに」


響「下着?少なくとも、途中までは春彦くんの死体に着せてあったはずなんだけど…」


秋「………」


響「ねぇ、まさかとは思うけどさ、その下に着てたりは…」


乙葉「馬鹿なこと言わないでよ!なんでそんなこと…!」


響「だよなぁ……」


一織「へぇー、じゃあ、かばんは?」


乙葉「かばんの中もないよ。見てみる?」


まな「あれ?そういえば、昨日見たとき、輝也の着替えだけ少なかったような気がする。あれじゃあ、あと1日分足りないはずだけど」


乙葉「っ!?」


一織「……なるほどね」


蓮花「なるほどって、どういうこと?」


一織「やっぱりきみ、秋ちゃんの下着着てるでしょ」


乙葉「は!?」


響「どういうこと?」


一織「だって、昨日までなかったものがかばんからでてきてもおかしいじゃないですか。ましてや、男の子のかばんから」


蓮花「でも、その根拠って…」


一織「まだ話は終わってません。今さっきの、『着替えが少ない』っていう発言。理由が分かりました。自分があらかじめ着ている分しか着替えを用意しなかった。いや、できなかったんですよ」


秋「なんだか、頭が、混乱して…」


一織「なぜなら、犯人は弟のふりをしただけで、体型そのものは女性なんですから。しかも、極端に遅くもなければ、もう成長期は来てるはず。となると、異性の下着は体型に合わない。だから、女性物を持ってきてるんですよ」


乙葉「ふっ、バカバカしいね。そんなの、根拠もない適当じゃんか」


一織「そうだね。でも、犯人は結局のところ君しかいないんだけどね」


乙葉「………え?何、言って……」


一織「いや、そのまんまだよ?だって、君が乙葉ちゃんなら、今まで話したことが違和感なく説明できるんだよ。2年生の女子なんて、秋ちゃんか乙葉ちゃんしかいないわけで。


まして、秋ちゃんが犯人なんだとして、自分にばかり疑いが向くようなことしかしていないでしょ?偽装工作を何回もしておいて、自分だけを疑わせる理由がないから


ついでに言っておくと、犯人しか知らないような情報を出しちゃってる以上、もう言い逃れは難しいんだよ。わかる?」


乙葉「そんなこと言われても…」


響「………だったらさ、私から1つ、君に提案があるんだ」


乙葉「提案?何?」


響「私と一緒に、男子用の風呂に来て欲しいんだ。いいよね?」


乙葉「え、どうして?」


響「だって、今までの説明の通り、普通に考えれば、秋さんが犯人になるんだ。ただ、君が『輝也くんのふりをした乙葉さん』という状況さえ成立しなければ。だったらさ、ここで君がそのことを証明すればいいんだよ」


蓮花「でも、それと風呂に何か関係があるの?」


一織「…………鍵、ですか?」


蓮花「鍵?」


一織「あそこの鍵って、番号打ち込んで開ける電子キーじゃないですか。だから、番号を知っているなら開けられると」


響「そう。それで、君が輝也くんなら開けることができるはずだよ。どう?」


乙葉「無理、だけど」


秋「そんな…」


乙葉「だって、最近まで学校行ってなかったんだからさ、無理じゃん。知らないんだもん。そんなのが証拠になるわけないでしょ」


響「はぁ…そこまで否定するならさ、そのズボン、脱いでみなよ」


一織「え!?」


ちょっと、響さん!?この状況でなんてこと言ってるんですか!?


乙葉「は!?なんでよ!?」


響「あ、別室でいいよ、異性に見られるのは恥ずかしいだろうし。でもさ、ここで犯行を否定できるほどの根拠なんて、もう残ってないよ?」


乙葉「…………」


ついに頭壊れたかと思いましたが、意外と理にかなっていました。びっくりです。


一織「で、どうなの?いけるの?」


乙葉「………………認めるわよ」


とんでもなく強引でしたが、これで終わりです。


乙葉「そうよ!私が、あいつらを殺したのよ!輝也のふりなんかしてまで!」


芹菜「本当に、乙葉先輩が、輝也のふりを…?」


秋「そんな、どうしてそんなこと…!」


乙葉「黙れ!!!」


秋「っ!」


乙葉「どうして?そこまで言うなら教えてやるわよ。どうせもうバレたんだからね」


響「………」


一織「………」


乙葉「輝也は……いや、家族は、みんな死んだのよ…」


秋「……………………え?」


乙葉「いや、死んだんじゃない。殺されたのよ!あいつらに、そしてあんたに!!!」

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