第14話
【響視点】
再び風呂場を訪れた。今回は一織ちゃんが鍵を開けた。彼女もまた、秋さんの手の動きを思い出しながら番号を打ち込んだようだ。
私は改めて春彦くんの死体を観察した。しかし、最初に見た時とは明らかに変わっている。
響「え?どうして…」
一織「響さん、どうかしました?」
響「どうして裸になってるんだ?」
一織「裸?違ったんですか?」
響「私と秋さんが見たときは、女性物の下着を着ていたんだ。なのに、今は裸になっている」
一織「それじゃあ、誰かが脱がせた?」
響「そうとしか考えられない。間違いなく死んでたんだ。自分で脱げるはずがないよ」
一織「なるほど…その死体、背中側を私に見せてください」
響「背中側を?どうして?」
一織「もしかすると……いえ、何でもありません。とにかく、見せてください」
響「う、うん」
私は言われた通りに、死体の背中側を見せた。そのことは、解決につながるきっかけを作り出した。私なら、絶対に気が付かなかった。
一織「やっぱり、こうだとしたら……」
響「何が分かったの?」
一織「犯人の特徴です。女性物の下着って、ブラジャー、付けてましたよね?」
響「そうだけど…」
一織「だとすると、ここ」
彼女は死体の、肩甲骨の間あたりを指さした。
一織「ここに、何も跡がついていないでしょう?これは、犯人が着慣れているからなんじゃないかと思います」
響「どういうこと?」
一織「あくまでも推測でしかないのですが、秋ちゃんが持ってきたものの特徴から考えると、ここに何もないのが奇妙なんです」
響「奇妙?」
一織「たとえば、響さんが春彦くんにブラジャーを着せたとしましょう。すると、普段から着ていない響さんは上手に着せることができない。結果として、爪で引っ掻いたような跡が残るはずです。
なのに、この死体にはそんなものはまったく見えない。さらに言えば、死体を女湯に隠していた。このことは、犯人を絞る根拠になるんです。犯人が、女性だということですよ」
響「なるほど……」
無理矢理な推理にも聞こえるが、何もおかしなことではない。死体に下着を着せるのも、死体を女湯にやるのも、女性を疑うのはおかしなことではない。いや、女性でなければ不可能だろう。
すると、私は別の事実に気がついた。
響「これ、もしかして…!」
一織「今度はどうしました?」
響「一織ちゃん。文也くんの部屋に行ってきてもらっていいかな」
一織「え?どうしてですか?」
響「理由は後で!」
一織「?」
私は一織ちゃんをせかして文也くんの部屋に向かわせた。理由はさっぱり分かっていないようだが、後で分かるだろうしいいだろう。
…………そういえば、どうして一織ちゃんは秋さんの下着の特徴をあそこまで断言するかのように言ったんだ?正しいかどうかは分からないが、なんとなく自信はありそうだったな。
一織「響さん、着きました」
メッセージが送られてきた。走っていったのか、距離に対して時間はとても短く感じた。
響「それじゃあ、確認してほしいことがあるんだけど、文也くんの全身の傷を確認してもらっていい?」
一織「傷ですか?」
響「そう。なにか、目立った外傷でもあれば」
一織「了解です」
一織ちゃんが調べている間、今度は蓮花さんからメッセージが送られてきた。
蓮花「お待たせ。あれの使い方、1年生は知らないって。教えられてないから」
響「そうですか。ありがとうございます」
やっぱり、そういうことなら……!
一織「響さん、大変です!」
響「大変?どうしたの?」
一織「今、文也くんの身体の向きを変えたんです。そしたら、口から鍵が3本も」
響「鍵?」
鍵………?
………………………………なるほど。まさか、な。
響「ちょっと待ってて。今から確認してくる」
一織「確認ですか?分かりました」
響「あと、これ、蓮花さんから送られてきたメッセージ」
一織「ありがとうございます」
私は急いで食堂へ、いや、厨房へ向かった。そうだ。昨日はあまり関係ないと思っていた。しかし、こんなことになるとは。
響「やっぱり、鍵が無くなってる」
よりにもよって、こんなところに鍵があるとは。きっと、スペアだ。ということは、犯人はこのことを知っていた?
響「だとすると、劇場以外のは、どこに…?」
すると、一織ちゃんから電話がかかってきた。
響「もしもし。どうしたの?」
一織「響さん、まだみんな食堂にいますか!?」
響「え?あぁ、いるよ」
一織「だったら、そこから誰も動かさないでください!」
響「え?どうして」
一織「さっきのメッセージのおかげで、犯人が分かったんです!」
響「え?」
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