第11話
【響視点】
なんだかぼんやりとした意識のまま目が覚めてしまった。ただ、少し頭が痛むのを感じる。二日酔いってこんな感覚なのだろうか。
寝ている時、間違いなく私は夢を見ていた。内容は上手く思い出せない。頑張って思い出してみても、なかなか思い出せない。
かろうじて覚えていたのは、劇場で何者かに追いかけられていたことぐらいだ。よりにもよってこんな所で見る夢ということを考えてほしい。普段とは比べようもないほどに怖い。
二度寝でもしようかと思ったのだが、今更寝るような時間でもないため、大人しく起きることにした。私にしては早起きだ。
簡単に身なりを整えて、一足先に食堂で待っていようと思った。部屋を出た。
その時だ。何か変なものが階段に付いているのが見えた。
響「なんだ、あれ…」
それは赤黒く、どこか濁ったように見えた。それに、なんだか血痕かのような、妙な付き方をしていた。
響「血痕……?……っ!?まさか!」
まだ眠気が残っていたところから、一気に目が覚めてしまった。こういうことが起きたということは、疑うまでもないだろう。
慌てて階段を駆け下りて、たどり着いたのは風呂場だ。下着泥棒がどうとか言って騒いでいたのがついさっきのように思える。
しかし、それとは状況が根本的に異なりすぎている。今回に関しては、最悪の場合人が死んでいる可能性があるのだ。いくら私でも、そんな状況で落ち着いていられない。
血痕と思わしきものをたどっていくと、そこは女子用の風呂場だった。秋さんが開けた記憶を頼りに、手こずりながらどうにか開けることはできた。そして、脱衣所からさらに血痕は風呂のほうまで続いていた。
風呂と繋がっている扉を開けると、浴槽の中に向かって血痕が続いていた。嫌な予感をしながら見てみると__
響「春彦くん?春彦くん!」
そこにいたのは春彦くんだ。青薔薇の造花が浮かんでいて見えにくくなっていたが、落ち着いて見るとすぐに分かった。春彦くんはすっかり沈みきっていた。
何かの間違いで、と思って浴槽の中から出したものの、疑うまでもなくとっくに死んでいた。こんなところで人が死んでしまうなんて、絶対にできないと分かっていても防ぐことができたら、と考えてしまう。
その死体は、女性用の下着を着ていた。それ以外には衣類をまったく着用していなかった。姿だけで言えば、間違いなく変態でしかない。しかし、前日の出来事を思い返すと、そうではないという可能性が浮かび上がってくる。
問題は、確信したところでなんと伝えればいいのか、ということだ。そもそも、どんな可能性があるとしても、それは私が思い込んでいるだけにすぎない。本人に確認を取りたい。
が、そうなると春彦くんが死んだことまで説明しないといけない。そこが悩ましいところだ。そのことが知られるのは時間の問題だとしても、簡単に言えたものでもない。
私は、どうしたらいいのか、かなり長い間自分に問い続けていた。そこに、彼女は現れた。
秋「え、えーっと、何してるんですか…?」
響「っ!?」
まずい。状況を正しく説明しようが虚偽の情報を混ぜて説明しようが間違いなく大変なことになる。
響「あーっとね、これはー、その、違くてね」
秋「違う?何がですか?」
響「それは…」
秋「私、早く起きちゃって。そしたら、なんだかこっちのほうが騒がしい様子だったので、見に来たんですけど」
響「なるほどね」
秋「ところで……そこにいるのは…?」
響「あ!それは__」
____結局、私がどうにかできることでもなかった。
秋「…………」
響「…………」
秋「………え?……………何、夢?」
響「いや、これは夢なんかじゃないよ」
秋「そんな、嘘でしょ、こんな、こんな……」
そのまま、彼女はその場に倒れてしまった。無理もないだろう。
その後は、秋さんを背負って、一度彼女を自室のベッドに戻しておいた。目覚めるまで、どれだけかかるだろうか。
そして、また例の浴槽へ向かおうとした。その時、階段を見慣れた人影が駆け上ってくる。一織ちゃんだ。
一織「響さん!」
響「一織ちゃん?どうかしたの?」
一織「どうかしたの、じゃないですよ!春彦くんが!」
響「……見たのか」
一織「その言い方、まさか、響さんも」
響「その通りだよ」
私たちは数秒間顔を見合わせて、急いで寝ている人たちを呼びに行った。もしかすると、本能、と言おうか、そのようなところで嫌な予感を見抜いていたのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます