第10話

【響視点】


一織「さぁ、全部正直に吐いてもらうよ」


あーあ。なんか面倒なことになっちゃったな。一織ちゃんガチギレだし、疑いがかかってるらしくて男子部員に紛れて蓮花さんまで何故か怒られてるし。


一織「怒らないから正直に言って。誰が盗んだの?」


響「もう怒ってるのに…」


一織「なんか言いました?」


響「いえ、何でも」


あっぶねぇ。疑いかけられてなくてよかった。


一織「で、誰?盗んだの」


春彦「……」


悠真「……」


文也「……」


輝也「……」


一織「え、なんで誰も何も言わないの?」


響「あのさ、一織ちゃん。仮に盗んだとして、こんなところで名乗り出るような人はいないんじゃないかな」


一織「んー、やっぱりそうですか。じゃあ、どうしたらいいと思います?」


響「どうしたら、って言われても…」


蓮花「あ、かばんの中を確認したら?そしたらはっきりするでしょ」


一織「へぇ、そんなこと言うってことは、それだけ自分の身の潔白には自信があると」


蓮花「自信も何も、今回は本当にしてないから」


一織「そうですか。じゃあとりあえずやってみましょう」


響「…マジで?」


こうして、月影 一織による男子+根室 蓮花の荷物検査が行われた。やり方は単純。かばんの中を探るだけ。そして、その結果はと言うと………


一織「嘘でしょ?誰も持ってないんだけど?」


響「あー」


こうなってしまった。で、こうなったらすることはただ一つ。


一織「すみませんでした!」


謝罪である。


蓮花「まぁ、しょうがないよ。こういうこともあるって」


一織「そ、そうですよね」


春彦「え、なに終わろうとしてんの?まだやらないといけないやつ、残ってるけど?」


蓮花「誰のこと?」


春彦「さっき荷物確認されなかったやつ全員。もちろん、月影さんも」


今度は私たちが荷物検査をされることになった。せっかく面倒なことから逃げられると思ったのに。私は盗んでいないので特に影響もないが、自分に疑いがかかっているという現実がなんとなく嫌だ。


残りの人たちのかばんまで、なんなら秋さんのやつまで探してみたのだが、やはりないものはないようだ。


春彦「で、下着はあったのか?」


秋「いや、やっぱりないや。なんでだろう」


悠真「気のせいなんじゃない?」


秋「いや、そんなはずは…」


芹菜「じゃあ、今から確認しに行けばいいんじゃないですか?」


文也「確認?どこに」


芹菜「どこって、脱衣所ですよ」


当たり前のことを言うかのような口調で、そんなことを提案してきた。普段なら真っ先に止めなければならないことなのだが、今回ばかりはそうもいかない。緊急事態なのである。


そして、全員で地下の風呂へ向かった。しかし、どうやら鍵がかかっているようだ。


秋「ここを、こうして……はい」


文也「あれ?俺たちと番号が違う」


まな「え、そうなんですか?」


輝也「不純異性交遊?の対策とか、そんなでしょ」


まな「なるほど」


一応、その辺のセキュリティちゃんとしてるんだな、とか考えたが、よく考えてみれば意識しないならこんなシステム、用意しなくても問題ないよな。


私たちは女子用の脱衣所をくまなく探した。そんなところにはないだろ、と思うような細かい部分まで、とことん徹底して。しかし、そこまでしても見つからなかった。


芹菜「マジ!?こんなに探してんのにないの!?」


まな「でも、探せるようなところは一通り探してるよ」


響「秋さん、大丈夫?」


秋「今回は諦めます。ご迷惑おかけして、すみません…」


結局、見つからずじまいのまま下着探しは終わってしまった。しかし、私は諦めが悪い。男子用の脱衣所も探すことにした。


文也「なんで俺が…」


響「いや、その、ね?頼みやすそうなのが君ぐらいだったから」


文也「そういうことですか。仕方ないですね」


響「で、2人はいつの間にいたの?」


一織「え?最初からいましたよ?」


悠真「ちなみに、春彦は速攻で眠りに戻りました」


響「へ、へぇ…」


とりあえず、4人がかりで探してみよう。で、かなり時間をかけたのだが、やっぱりなかった。どうなってんだ?


一織「どうします?そろそろお手上げでは?」


響「正直、もう諦めるしかないかも」


悠真「秋のやつ、大丈夫か?」


文也「こればかりは仕方ないよ。こういうこともあるって」


下着泥棒の証拠を一切掴めないまま、私たちは眠りにつくことにした。


____下着泥棒なんかよりもっと恐ろしい、「青薔薇の殺人鬼」がいるとも知らないまま。

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