第7話

【響視点】


蓮花「2人ともおつかれ〜」


響「お疲れ様です。私たちは劇を見ていただけでしたが」


蓮花「劇、見てみてどうだった?」


響「すごいなって思いました」


一織「面白いなって思いました」


蓮花「感想短っ!」


一織「そんなこと言われても、私たちに演劇の知識がないんですから、難しいですよ」


一織ちゃんの言っていたことは、私が思っていたことそのままだ。語れるならもっとしっかり語りたいのだが、いまいち分からないので下手なこともしたくないのだ。


蓮花「まぁ、仕方ないのかな?それよりさ、2人はこれからどうするの?」


一織「私は今からお風呂に入ろうかなって思ってます」


蓮花「ちょうど私もそんな気分だったんだよ。一緒に行こう?」


一織「えぇ…………はい、行きましょう」


蓮花「響ちゃんはどうすんの?」


響「私は後で行きます」


蓮花「そう?じゃあ、お先に。間違っても、私たちが風呂入ってるとこを覗いたりしないでよ?」


響「しませんよそんなこと」


私のことを一体何だと思っているのだろうか?

そんなことをするように見えているのか?


蓮花「あ、そうだ。響ちゃん、先に言っときたいことがあるんだけど」


響「何ですか?」


蓮花「部屋の鍵、予備ないから、無くさないようにね」


一織「え、ないんですか?」


蓮花「ないんだよねー。なんでかは知らないけど」


響「そうなんですか。教えてくれて、ありがとうございます」


こうして、私は2人とは別れた。私は1人になると、まっすぐ厨房へ向かった。探してみると、電気ポットがあった。コンセントは見つからなかったので、電子レンジのコンセントを抜いて刺し替えた。


しかし、ここで私は肝心なことを見落としていた。茶葉もない、コーヒー豆もない、粉末状のカフェオレもない。お湯を沸かしたところまでは良かったのだが、白湯として飲まざるを得なくなってしまった。


自分で何かしら持ってくれば良かった。そもそも、勝手にポットを使っている時点で怒られてもおかしくない。何事もないことを祈ろう。


仕方ないと割り切って白湯を飲んでいた。健康がどうとか、知ったことではない。どうでもいいだろう。


そんなことを考えながら1人食堂にいたところに、秋さんがやってきた。


秋「あ、お疲れ様です」


響「お疲れ様です。みんなすごかったよ」


秋「ありがとうございます。ただ、根室さんはまだ納得できていないみたいですし、もっと頑張らないと、ですね」


向上心高いな、と思ったが、人前で披露するものであると考えると、このぐらいの気持ちでいないといけないのかもしれない。


響「それで…ここに何しに来たの?」


秋「あぁ、その……」


響「?」


なんとなくだが、迷いがありそうな感じがする。お菓子でも物色しにきたのかな?なんて考えていると、思いも寄らぬ相談をされた。


秋「あの、相談なんですけど」


響「なに?」


秋「不登校になった子って、どうすれば話してくれるようになりますかね」


響「え?」


秋「私たちが何度か名前を出した、乙葉って子がいるんですけど、その子、多分私たちのせいで来なくなったんです」


響「………え?どういうこと?」


秋「私たちが、演劇部のみんながいじめたんです。そのせいで、きっと」


響「いじめ…?」


当然だが、彼女は嘘なんかついていなかった。本気でそう言っていた。


響「具体的に何をしたのか、教えてもらっていい?」


秋「はい」


秋さんはいじめの実態を話してくれた。いじめの加害者は今回の2年生の男子3人、被害者は日向姉弟だ。


そもそものきっかけとなってしまったのは、輝也くんが入部してきたからのようだ。彼は、未経験でありながら、他の部員よりも圧倒的に優れた演技力を持っていた。姉である乙葉さんも、同級生が敵わないと思うほどに演技が上手かった。


まだ、乙葉さんだけがいたころは羨ましく思われる程度で、いじめに発展することもなかった。しかし、輝也くんまで入ってきて、姉弟揃って才能に恵まれていると誰もが思った。


こういったきっかけで、いじめが始まってしまった。いじめと言っても、基本的には目立ちにくく行われていたようだ。ひっそりと罵倒したり、私物を隠すフリをしたり。結局のところ、度胸はなかったのだろう。話を聞く限り、先生にバレたらまずい、そんな考えが邪魔をしていたようだ。


だが、このことは被害者にしてみれば心を痛めるには十分なことだった。特に、今回の劇の役が決まってからはいじめもエスカレートしたらしく、しばらくは2人ともまともに学校に行けなくなったほどだ。乙葉さんに至っては、まだ復帰できていない。


だが、輝也くんはどうにも反感を買いやすい性格のようだ。今日の様子を見ているだけでも、そのことは想像できてしまう。


響「なるほどねぇ。なかなか大変だね」


秋「本当にそうなんです。ただ、私が止めていればって思うんです。乙葉はまだ来れていないわけですし」


響「1人で無理して抱えこまなくてもいいんじゃない?」


秋「そうかもしれないですけど、やっぱり友達を守れなかったわけですし」


彼女はひどく責任を感じているようだ。私がとやかく言えそうにもない。


秋「あ、もうこんな時間ですね。すみません、嫌な話しちゃって」


響「いや、全然気にしてないから。大丈夫だよ」


秋「今日は、早いうちに風呂に入って、しっかり寝ようと思います。ありがとうございました」


そう言ってどこかに行ってしまった。私も、自分が風呂に入っていなかったと思い出し、着替えを取りに自分の部屋に向かった。その途中、廊下で一織ちゃんが立っていた。誰かと話しているようだ。


一織「……………え!?どういうこと!?」


響「一織ちゃん?何話してるんだろう…」


その奥をよく見てみると、話の相手は文也くんだった。しかし、それとは別に、誰かが話を聞いているのか?他の人の気配がした。しばらく立って話を聞いていた。


秋「あ、あの!」


響「うわっ!?って、秋さんか。どうしたの?」


秋「助けてください。私の下着が無くなってるんです!」


響「下着が……えっ!?」

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