第4話
【響視点】
なんかよく分かんないけど部員同士で喧嘩を始めてしまった。こんなんで部活としてやっていけるのか?
響「蓮花さん、こういう時は一体どうしたらいいでしょうか…」
蓮花「これは…私にもどうしたらいいか…」
マジかよ。一番頼りになりそうな人が豪速球で匙を投げ飛ばしてしまった。色々と不安なことが増えていく一方だ。
春彦「そもそも、役者であるお前の姉がいないと練習にならないんだよ」
輝也「だからって病人を連れてこれるわけないじゃん。それよりも、自分の心配したら?大して演技上手くないくせに」
芹菜「バカ!いくら事実だからって何でもかんでも言っていいわけじゃないんだから!」
春彦「なんだと!?」
芹菜「ひぃぃぃ〜、ごめんなさい〜」
文也「春彦、もうやめてあげようよ」
春彦「黙ってろ裏方がよ」
文也「…………」
悠真「すげーw、爆速で状況悪化しちゃった」
なんでこんなに雰囲気悪いんだ?先生?何があったんですかこの部活。
秋「もう!喧嘩はよしなって。こんな調子だと、いい劇なんか作れないよ」
春彦「だったらこいつらどうにかしろよ」
そう言うと若狭くんは1年生(特に輝也くん)の方に指をさした。
春彦「こいつらの態度のせいでイライラが増える一方なんだが?」
秋「若狭くん?」
春彦「な、何だよ」
秋「……はぁ、もういいや」
春彦「えっ?」
秋「説教みたいなことをするの、私が嫌いだからやめておこうってこと」
まな「先輩カッコイイ!」
秋「みんなも、喧嘩になるようなことは控えるようにね」
芹菜・まな「はーい」
先輩すげえ。
蓮花「えーっと、じゃあ、もう準備いいかな?」
文也「大丈夫だと思います」
蓮花「よし、それじゃあ、みんなバスに乗り込んでね。さっきからずっと待ってたから」
芹菜「え、そうなの?」
一織「あー、あのずっと停まってるやつって…」
蓮花「そう、あのバスに乗って私たちは合宿所、みたいな所に行くの」
合宿所みたいな所?どういうことだろうか。そんな曖昧に表現する理由とは?
いや、私がそんなこと考えてもどうしようもないな。着いてから考えるかどうかは決めよう。そんな怪物が潜む絶海の孤島とかでもないだろうし。
私たちはバスに乗り込んだ。しかし、私はこの時点で怪しいと思い始めていた。バスの運転手が顔を徹底的に隠していたからだ。口元はマスクで覆われていて、帽子は深くまで被っていたうえにサングラスもしていた。服も黒かったから、不審者のようだと思った。
そして、ぼんやりとした怪しさから少し凝視してしまったのだが、そこで見つけてしまったのは狐のお面だ。
恐怪島(きょうかいじま)。連続殺人事件があった島だ。その島に向かう時の船の運転手が同じデザインのお面をつけていたはずだ。違うとしても、似ていたことは疑うまでもない。
探偵の勘とでも言ってしまおうか。また事件が起きるのではと予測が立ってしまったのだ。もっとも、予測だけでどうにかできたものではないが。そもそも防げるなら最初から防ぐし。
少し狭めのバスの車内、私は落ち着きがないまま過ごしていた。発車してもそれは落ち着かない。とりあえず外を見ようとしたその時、紙で頭を叩かれた。
一織「響さん、これ台本です」
響「台本?」
蓮花「一応合宿に着いてくるならどんな劇なのかぐらいは最低限頭に叩き込んでほしいから。ざっくりでいいから、読んでおいてね」
響「分かりました」
私は台本を読み始めた。題名は「ローゼ・ナイト」というものだ。内容は以下の通りだ。
一国の姫が魔術師の呪いによりいばら姫という魔物にされてしまった。そのせいで自分の部屋から出れなくなってしまう。それを亡命してきた王子と同じく魔物のローゼ・ナイトのどちらが救い出すのか。
響「中二病か?」
思わずこんな感想を持ってしまった。気になって作者を見てみた。しかし、誰か分からない。そこで蓮花さんに聞いてみたのだが、どうやら彼女の後輩らしい。
響「これって蓮花さんからしてみればどんな台本ですか?」
蓮花「私は結構面白いと思う。『孤独であることの恐ろしさ』というテーマの表現も上手いし、王子とローゼ・ナイトの2人の人物の対比も幅広く表現されている。まぁ、直接的な表現が少ないのと静かな場面が多いから退屈になりそうなのは欠点だけど」
響「すごい…そんなことまで分かるもんなんですね」
蓮花「こればかりはなんとも言えないけどね。拡大解釈な可能性もあるし」
拡大解釈だとしても、それだけこの台本に真剣に向き合っているのだ。自分は本番何もしないにも関わらず。彼女はそれだけ演劇に情熱的な人物なのだ。だとすれば、私もそれに応えるしかない。
運転手「皆さん、着きましたよ」
悠真「もう?早いな」
輝也「部長、今何時?」
秋「6時だね」
蓮花「みんな、まずはそれぞれの部屋に自分の荷物を置く。その後、6時30分から夕食で、7時30分から1時間だけ練習」
春彦「えー、今日ぐらい良くない?」
蓮花「そんなこと言わないの。せっかく先生が場所用意してくれたんだから」
不満こそ多かったが、私たちは合宿を始めた。この時、同時に始まったことがある。台本とは全く異なった、何者かによる即興劇だ。
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