第2話

【響視点】


合宿初日、私と一織ちゃんは生徒たちが授業を終えるよりも先に学園に行った。理由などない。ただ、授業がいつ終わるのかを把握していなかったのである。


そんな雨渦学園だが、とにかく校舎が大きい。いや、校舎どころか敷地そのものが大きい。中高一貫ということを加味したとしても大きすぎると思う。


響「でっかー。これが金持ち学園か」


一織「ここまで分かりやすい名門校もなかなかないですよね」


響「こんなところに通う人なんて、悪い言い方だけど一般人とはかけ離れているんだろうね」


一織「そうだと思いますよー」


と思っていたのだ。とある人物に会うまでは。


蓮花「あれ?一織ちゃん?それに響ちゃんまで」


響「あ、根室さん。お久しぶりです。お元気ですか?」


蓮花「う、うん。そんなことより、こんなとこに何の用なの?」


響「なんか今日から演劇部の合宿があるらしいんですけど、顧問の先生が来れなくなったから代わりに行ってほしいって」


蓮花「……え!?君たちが!?」


響「そうですけど。どうかしたんですか?」


蓮花「高塚さんからは代理を呼んであるとは聞いてたけど、まさか君たちが代理とは」


もしかすると、この人のことを知らない読者もいるかもしれないので説明しておくと、この人は根室 蓮花(ねむろ れんか)さん。前回の事件における依頼人だ。


響「あ、高塚さんから話を聞いてるってことは」


蓮花「そう。私が演劇部の卒業生よ」


なるほど。想定なんてまるでしていなかったが、一応面識がある相手なら気持ちも楽だ。


響「……ほう。つまり金はたくさんお持ちで」


蓮花「い、いや、私はないよ?うちにはたくさんあると思うけど」


響「そういうことですか。あなたがこの間の事件で私たちに払った金額、なーんか割高だなあとは思いましたよ。ありがたく受け取りましたけどね」


蓮花「私もそうしようとは思わなかったけどさ、パパがうるさくてうるさくて」


響「あら、そうなんですね。お父様には感謝を伝えておいてください」


蓮花「以外に金にがめついのね、響ちゃんって……」


響「そうですかね?」


実際のところ、あるならあるだけ嬉しいのだが、ないならそれはそれでどうにかあるものだと思う。もちろん、貰えるならいくらでもほしい。


蓮花「ところでさ、響ちゃん」


響「なんでしょう?」


蓮花「どうしてさっきから一織ちゃんは一言も喋ってくれないのかな」


響「…え?」


言われてみればそうだ。蓮花さんが来てから、一言も一織ちゃんは喋っていない。それに、目線を意図的に逸らしているようにも思える。


蓮花「ねーねー。黙ってないで話そうよー。お姉ちゃん泣いちゃうよー」


一織「…………」


響「まるで相手してくれそうにもないですね。どうしますか?」


蓮花「どうするって言われてもなぁ…」


なんで相手してくれないのかは想像つくのだが、黙っておこう。


蓮花「うーん、こうなったら、体育館でも覗きに行こうかな。今ならちょうどやってるだろうし」


一織「何言ってるんですか!?」


蓮花「ようやく喋ってくれた。もー、ちょっとはお姉さんに優しくしてくれてもよくない?」


一織「何も余計なことをしでかさないなら良かったですよ。でも、もう既にアウトな方へ突き進もうとしていますよね!?」


蓮花「大丈夫だって、まだ未遂だから」


一織「その考えがダメなんですよ!」


どうして一織ちゃんがここまで厳しいのかというと、前回の事件で会った際には、自分をネタにした百合(花のことではない)の話をされたせいであろう。その割には、この間は普通に話してたはずだ。


あ、でも部屋には連れ込んでたな。さすがにアイスティーとかは出してないだろうが。


蓮花「分かったよ。もう…」


一織「今回こそは、大人しくしててくださいね」


蓮花「よし、女子更衣室に行こう、響ちゃん」


響「!?」


じょ、女子更衣室!?


一織「あのですね?話聞いてました?」


蓮花「当たり前じゃん。聞いてた聞いてた」


一織「嘘つけ!なんならさらに突き進んだ段階にたどり着きましたよね!」


蓮花「気のせいだよ。それに、これは響ちゃんが決めることだから」


一織「大体、なんで響さんを女子更衣室に行かせようとするんですか。一応男性ですよ?」


蓮花「え?響ちゃんが…………男、の子?」


あれ?話してたと勝手に思ってたが、私の記憶違いか?それとも、蓮花さんが忘れてるのか?どっちだ?


蓮花「そんなの嘘でしょ?」


一織「逆に聞きますけど、そんなしょうもない嘘をこのタイミングでつくと思いますか?」


蓮花「いーや信じないね。ほら、こことか触ってみれば分かるから」


そう言って、この変態は私の胸を触ってきた。


蓮花「あ、あれ、感触が…」


響「何するんですか!!!!」


ビビビと強い音がした。私の平手打ちが蓮花さんの頬にクリーンヒットしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る