断罪の探偵 6 青薔薇の殺人鬼

柊 睡蓮

第1話

【登場人物】


日野 響(ひの ひびき)♂

探偵。21歳


月影 一織(つきかげ いおり)♀

探偵その2。高校1年生


根室 蓮花(ねむろ れんか)♀

雨渦(あめうず)中学演劇部の卒業生。23歳


下野 秋(しもの あき)♀

演劇部部長。2年生。メイド役


若狭 春彦(わかさ はるひこ)♂

2年生。王子役


石見 悠真(いわみ ゆうま)♂

2年生。魔術師役


近衛 文也(このえ ふみや)♂

2年生。大道具係


美作 芹菜(みまさか せりな)♀

1年生。照明係


和泉 まな(いずみ まな)♀

1年生。音響係


日向 輝也(ひゅうが てるや)♂

1年生。ローゼ・ナイト役


日向 乙葉(ひゅうが おとは)♀

2年生。今回は不在。いばら姫役


高塚 拓海(たかつか たくみ)♂

学園理事長の息子にして演劇部顧問。ただし体調不良により不在


【響視点】


6月も後半に差し掛かってきた。連日の雨、ただでさえもやもやとした私の心はより曇っていく。


私の名前は日野 響(ひの ひびき)。探偵だ。そんな私は、先日とある島へ行った。そこで起きた殺人事件を解決したのだが(「恐怪島殺人事件」を読んでいただきたい)、それに関連して疑問が永遠に頭を巡っていた。


どうやら、その事件には、裏で糸を引く何者かがいたらしい。それに加えて、宣戦布告とも言える発言をしてきた。そして、私には1つ大きな問題があった。記憶喪失の身なのだ。


私が過去にその人物と何かあったのか、それは分からない。記憶喪失とは全く関係ない可能性も十分にある。しかし、もしその人物が私の秘密を握っているのなら?


こんなことを考えて時間は浪費されていくばかりだ。今のところは仕事は上手いことできているが、この調子ではいつか支障をきたしてしまうかもしれない。一刻も早く疑問は解決していきたいのだが、どうすればそんなことができるだろうか?


一織「響さん、また考え事ですか」


響「うん」


私に話しかけてきたのは、私が居候している探偵事務所の月影 一織(つきかげ いおり)ちゃんだ。現役の高校1年生である。


響「あれ?学校じゃないの?」


一織「何言ってるんですか。もうとっくに終わりましたよ」


響「……あれ?」


一織「もう6時です。学校は全然前に終わってますよ」


響「そうなんだ…」


考えすぎていたせいで、時間の経過にまるで気がついていなかった。もうそんな時間だったのか。


一織「やっぱり、この間の境界島の一件があってから様子が変ですよ。何かありましたよね」


響「いや、気のせいでしょ…」


一織「だとしたら何をそんなに考え込むんですか」


響「えぇ…」


一織「私で良ければ聞きますよ。何があったんですか」


響「…………」


もしかすると、命を失うかもしれない。冗談ではなく、本気で恐れている。そんなことに巻き込んでいいのか。


響「いや、いいよ。気にしないで」


やっぱりやめておこう。危険なことからはなるべく遠ざけておきたい。


一織「そうですか。もうこの話題はおしまいですかね」


響「そうだね」


一織「それじゃあ、違う話をします。雨渦(あめうず)学園って知ってますよね?」


響「雨渦学園?なんだっけ、それ」


一織「あ、あれ?」


聞いたことはあるのだが、具体的にどんなものかが思い出せない。名前だけなら分かるんだけどなあ。


一織「雨渦学園っていうのは、有名な中高一貫の私立です」


響「そうなんだ。なんとなく聞き覚えはあったんだけどね」


一織「雨渦学園は芸能人の卒業生も多いので、何かと話題になることが多いんです。あと、金がやたらかかることに定評がありますね」


響「……ちなみに、どのぐらい?」


一織「どのぐらいかは私もはっきりと覚えてるわけじゃないんですけど…少なくとも、庶民の家庭であるうちが行くのは天変地異とかそんなレベルの話ですね」


天変地異って。どんだけ金かかるんだ。


響「それで、その金持ち学園がどうしたの?」


一織「その金持ち学園からですね、依頼ですよ」


響「依頼だって?泥棒をとっ捕まえろとかかな」


一織「さぁ?内容まではまだ目を通していないので」


響「じゃ、いまぱっと確認するか」


私たちは、事務所のパソコンからメールをチェックした。そこには学園の教員からのメールが一通来ていた。


送り主は高塚 拓海(たかつか たくみ)さんだ。どうやら、自分が体調を崩してしまったので、金曜日の放課後から始まる中学校の演劇部の合宿に代わりに着いてきてほしいらしい。


響「なるほどねぇ…」


一織「どうします?私は一応行くだけ行こうと思っているんですけど」


響「学校サボれるから?」


一織「それもありますけど、年代的に私の方が近いですし、演劇部の子たちも接しやすいかなって」


響「そういうことね」


良いこと言ってるのは分かるのよ。ただ学校を堂々とサボろうとするのはやめておこうよ。


一織「響さんはどうします?」


響「私?私は、そうだな……」


しばらく考えた。正直、私が行く必要はない気がしていたからだ。


響「私も着いてくよ」


しかし、私が出した結論は行くほうだった。高校生を一人で行かせるのは良くないという考えだ。それ以外に理由はない。


こうして、私たちの合宿行きが決まった。その夜、私は自分のアドレスから高塚さんにメールを送った。個人的に、彼に聞きたいことがあったからだ。


そして、生徒は何人参加するのか、他に来る人はいるのかという内容のメールを送ったのだが、返信は来なかった。体調を崩しているということを考えると、当然のことではある。


それに返信が来たのは翌朝だ。参加する生徒は7人で、OGの人が1人来てくれるらしい。


もしかすると、やっぱり私はいなくてもいいかもな、と思い断わろうかと迷った。しかし、今更引き返せない。こうなってしまった以上、やるしかない。仕事だし、しょうがない。

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