2話 1日目 赤い薔薇探し
早朝、動き出しは思ったより早かった。依頼者には午前九時に電話をかける予定だ。その間に『赤い薔薇』とやらを探さなければならない。
そう決まってしまえば、行動に移すのは早かった。
まず、池津駅周辺を捜索。
少なくとも依頼した事務所が自分が所属する探偵事務所なら、捜索範囲は市内、もしくは隣町、と言ったところだろうか。そもそもこれ以上操作範囲が広がると、赤い薔薇なんていくらでもでてきてしまう。
そもそも、赤い薔薇を見つけたところでそれをどうするんだ?いや、とりあえず探すことが大切。依頼者もとりあえず探せ、と一点張りのようだし。
まず、駅周辺を散策しに行った。ごくありふれた民家で、赤い薔薇など見つかりそうになかった。たまに豪華な家があったときは薔薇を期待するものの、管理の難しさからかなのか、薔薇を育てている家などなく、中々見つからない。
諦めることを視野に入れようとしたとき、移動と散策で時間を使ったようで、時計は電話をかける時刻の九時を指していた。
鞄から携帯を取り出し、緊張しながらも番号を間違えることなく入力し、恐る恐る電話をかけた。
_________おかけになった電話番号は現在使われていません。
頭が真っ白になった。唯一の希望は、あてにならない『赤い薔薇』だけになってしまったようだ。
今日やることは、決まった。『赤い薔薇探し』だ。
とりあえずこのまま午前は池津駅周辺を探すとしよう。午後からは両浜高校周辺を散策して、それから一回事務所に帰るか。がっかりしている暇はない。
それから死物狂いで探した。その結果、池津駅周辺では収穫なし。しかしまだ希望はある。
両浜高校周辺に、それから北方面に、隣町に…捜査範囲は膨大であった。私はことの重大さに気づき、昼食を食べずに、両浜高校方面へ向かった。
通りゆくものすべてが、手がかりに見えて混乱した。赤い薔薇を探しているため、今は赤に敏感だ。赤い車でさえ、二度見してしまう。
私はひたすら探した。赤、赤…と繰り返し違うものに反応しては、また探して、の繰り返し。
さらなる希望を求めて私は両浜高校へ向かった。すると両浜高校の裏の道で赤い薔薇を見つけた。
見事な赤い薔薇だった。
今までにない希望を感じ、近づくと薔薇の木が道のようになっており、奥に繋がっていた。
私有地の可能性もあるが、少し気になり進んでみることにした。
すると、薔薇の木が何本も植えられており、どこまでも続く道のようになっていた。
咲いている薔薇一つ一つがとても見事で圧倒された。
しかし、何か異変を感じた。
後ろを振り返ってみると来たはずの道がない。薔薇の壁と同様、二メートルほどの薔薇の木で塞がれていた。もとからあったかのように。そんな訳ない、これではまるで迷路だ。
少しの恐怖と不安で足が竦んだ。このまま出口がないなら帰れない。
だが冷静になって考えると、今は進むことしかできないので、仕方なく進んでみることにした。でも今更考えてみるとおかしい。
自分の母校である、両浜高校の近くにこんな路地はないはずだし、住宅地にこんなとって付けたような広い場所がある訳ない。
私の目の前には、不思議の国のアリスに出てくる「薔薇の迷路」のような光景があった。2メートルほどの薔薇の木が隙間なく植えられていて、そこはまるで現実ではないような気がした。
そう非現実に浸っていると薔薇の木の向こう側から人の気配がした。どうやら少し進んだ先に、空間があるようだ。
私は気づかれないように咄嗟に、薔薇の茂みに隠れた。
しかし、その空間がどうしても気になったので、茂みの隙間から覗くことにした。
そこには、夢のような景色が広がっていた。
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