クラシカ・ハルモニ

坂東さしま

クラシカ・ハルモニ

「家に帰りたい・・・」




第7衛星国自衛軍、新人将校のヨハネス・リナルドは、誰もいない屋上で、どこまでも広がる森林を眺めながら野菜サンドイッチをほおばっていた。


頬は真っ赤に腫れている。


目には涙がたまっていて、零れるのも時間の問題だ。




ヨハネスは容姿端麗、成績優秀。学生時代から将来を期待されていた。


国を守る仕事がしたいと考えた彼は、自衛軍に幹部候補生として入った。防衛関係の省庁、政治の道へ進むための就職も考えたが、現場で働くことこそ、本当に国を守る事だと考えたのだ。




しかし、社会はそう甘くはなかった。


勉強ができることと、仕事ができることは別物。それも軍という特殊な環境。




半年の新人研修が始まったその日から、ヨハネスは「使い物にならない」と認定され、たたき上げのベテランに罵倒され、殴られ、時に使い走りにされた。


同僚からも厄介者扱いされ、日々の研修の苦しみを分かち合える仲間もできない。


優秀な学生だった彼は、社会に出てからは劣等生としての毎日を送っていた。




そして本日、研修の最終日。午後から配属が発表される。




ヨハネスの配属希望は、花形部署の機械自衛部のパイロットである。一昔前の戦争と言えば、戦艦で他衛星国に攻め入り、そこでの陸戦や戦闘機での空戦が主流であった。しかしここ30年ほどは、国に攻め入らず、宇宙空間での人型機械による戦闘がメインに移っていた。




花形部署であるから、優秀な人材しかこの部署には配属されない。今の研修成績では絶望的だった。


1年目から窓際部署かもしれない。ヨハネスは覚悟していた。




ぽとり、と涙がパンに落ちる。


「・・・こんなはずじゃなかったのに・・・」




「どんなはずだったの?」




びっくりして声の方に振り向くと、豊かな金色の髪と薄い茶色の瞳を持つ若い女性がヨハネスの隣に立っていた。




それも、至近距離に。ほんの一ミリでも近づけば、体同士が触れる距離だ。




軍服を着ていることから、彼女も軍人だとは見て取れた。ただ、軍服の色が全身真っ青で、階級を表すものを何もつけていない。




「どちらさま・・・ですか?」




「ねえ、どんなはずだったの?」




「それは・・・」




「思い通りになることなんか、人生にはひとつもないわ」




女性はヨハネスの瞳を刺すようにみつめる。




「ヨハネス・リナルド」




そう言って、彼女は髪を揺らしながら去っていった。




ヨハネスは「自分でも信じられない」「何かの間違いではないか」と何度もつぶやいたのだが、機械自衛部に配属された。




彼は東部の第8小隊に副隊長として入ることになったのだが、そこでまた驚くことがあった。


小隊長は、屋上で出会ったあの女性だったのだ。




「クララ・アルミーダです。よろしくね、ヨハネス」




そしてヨハネスは国を守る戦い、そしてロベルトとの、クララをめぐる結ばれそうで結ばれない愛の物語が始まるのであった。


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こちらの物語はこれで終わりですが、もし面白いと思っていただけたら、長編小説の方をご一読いただけると幸いです(このアニメが小説内に出るのはもう少し先です)

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