第2話 藤村家の失踪

翌朝、雨はまだ止む気配を見せず、霧雨村は薄暗い霧に包まれていた。東京から異動してきたばかりの刑事、夏川遼は、村の様子を見回しながら藤村家に向かっていた。彼の背筋には不安と緊張が走るが、それを表に出すことはなかった。


藤村家の門前に立つと、その重厚な造りと歴史を感じさせる外観に圧倒された。門をくぐり、広い敷地を進んでいくと、前日の雨でぬかるんだ地面が彼の足を重く感じさせた。玄関に到着し、呼び鈴を鳴らすと、数秒後に中年の女性が出てきた。藤村家の家政婦だ。


「お待ちしておりました、夏川刑事。どうぞお入りください」


家政婦の案内で広々とした応接間に通されると、藤村彩が待っていた。彼女の顔には疲労と不安が色濃く表れていた。


「ご主人の失踪について、詳しくお聞かせいただけますか?」


夏川は丁寧に切り出した。


藤村彩は深いため息をつき、話し始めた。


「昨夜、謙二は書斎にいました。いつも通りに仕事をしていたようです。しかし、突然雷が鳴り響き、停電になりました。その後、様子を見に行こうとしたら…書斎にはいなかったんです」


「何か異変はありましたか?」


夏川は鋭く尋ねた。


「書斎の窓が開いていました。泥の足跡が続いていて…」


彩の声は震えていた。夏川はメモを取りながら、書斎の様子を詳細に尋ねた。彩の証言によると、窓の外には足跡があり、庭へと続いていた。しかし、足跡は途中で消えていたという。


夏川は書斎を調査することにした。彩の案内で書斎に入ると、そこには整然とした書棚とデスクがあった。彩が指し示す窓に近づくと、確かに泥の足跡が残っていた。


「これがその足跡です。雨のせいでほとんど消えてしまいましたが…」


夏川は足跡を注意深く観察しながら、窓の外を覗き込んだ。外はまだ霧が立ち込めており、視界は悪かったが、足跡が庭の方に続いていることがわかった。


書斎の窓には古びたお守りが掛かっていた。それに気づいた夏川は、彩に尋ねた。


「このお守りは?」


「父が謙二に渡したものです。藤村家に伝わる古いお守りで、家を守ると言われています」


夏川はお守りを手に取って調べた。不思議な符号が刻まれているが、その意味はわからなかった。しかし、お守りには雨で濡れた形跡があり、何か異常があることを示していた。


調査を進める中で、夏川はデスクの引き出しに鍵が掛かっていることに気づいた。


「この鍵を開けることはできますか?」


彩は一瞬ためらった後、小さな鍵を手渡した。引き出しを開けると、中には手紙や書類が整然と並べられていた。その中で、一枚のメモが目に留まった。


「これは…」


メモには、謙二が何かを計画していた痕跡があった。夏川はメモを読み上げた。


「『呪われた夜、雨の夜に現れる亡霊…。その正体を暴くために、私は…』」


メモはそこで途切れていたが、その内容は非常に不吉だった。


「彩さん、これは一体…?」


彩は目を伏せ、静かに語り始めた。


「謙二はずっと、村の伝承について調べていました。特に、亡霊の伝説に興味を持っていて…」


夏川はその言葉に耳を傾けながら、謎がさらに深まるのを感じた。謙二は一体何を知ってしまったのか、そして、そのために失踪したのか。


調査を続ける中で、夏川はデスクの奥からさらに古びた手帳を見つけた。手帳には、謙二が綴ったと思われるメモや考察がぎっしりと書かれていた。そこには村の歴史や伝承、失踪事件についての詳細が記されていた。


「これが謙二の研究の成果か…」


夏川は手帳を手に取り、読み進めていった。その中で、一つのページが彼の目を引いた。


「呪われた場所…」


手帳には、呪われた場所についての詳細な記述があった。古い地図と照らし合わせると、それは村の外れにある廃屋のことを示していた。


夏川は手帳とメモ、お守りを持ち、藤村家を後にした。村の中にはまだ雨が降り続けており、不安と緊張が漂っていた。しかし、夏川は次の一手を考えていた。


「廃屋に行く必要がある」


藤村謙二の失踪事件の鍵を握るのは、間違いなくその場所だ。夏川は村人たちと協力しながら、次なる調査を進める決意を固めた。


謙二のメモと手帳、そして呪われた場所に隠された秘密。夏川はその手がかりを追い、次に進むべき道を見つけた。藤村謙二の行方、そして村の伝承に隠された真実とは一体何なのか?



次回、夏川は山本進と共に廃屋の調査を開始する。そこに待ち受ける恐ろしい発見とは?物語はさらに深い謎へと進んでいく。

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