真夏の夜、突然の激しい雨と共に消えた名士。雨の夜に現れる亡霊の伝説が、村を恐怖の渦に巻き込む。異常気象と失踪事件の真実とは?

湊 町(みなと まち)

第1話 プロローグ(真夏の夜)

霧雨村は、その名の通り霧と雨に包まれた小さな山間の村だ。真夏の夜、村は突然の線状降水帯に襲われた。豪雨が村全体を覆い、まるで天の怒りが降り注いでいるかのようだった。


避難所である村の集会所には、ほとんどの村人が集まっていた。中には不安そうに外の様子をうかがう者や、子供を抱きしめる母親の姿も見える。稲光が時折、暗闇を引き裂き、轟音と共に雷鳴が響く。そんな中、一人の男が周囲を見回しながら焦燥感を滲ませていた。


「藤村さんがいない」


その一言が、避難所内に一瞬の沈黙をもたらした。藤村謙二は村の名士であり、藤村家の当主として村の発展に尽力してきた人物だ。その彼が行方不明となった今、村人たちの間に不安と恐怖が広がっていた。


「謙二さんの書斎を調べた方がいいかもしれません」


年配の男性、山本進が口を開いた。彼は村の歴史学者であり、村の伝承や過去の出来事に詳しい。山本の提案に従い、数人の村人が藤村家に向かった。豪雨の中、彼らは藤村家の重厚な門をくぐり抜け、広い敷地を進んでいった。


豪華な藤村家の屋敷は、長い歴史を感じさせるものであった。村人たちは書斎の扉を開け、内部を調べ始めた。書斎の中はきちんと整理されており、一見すると何の異常も見当たらなかった。


しかし、一人の村人が古びた日記を見つけた。


「これは…謙二さんの日記だ」


村人たちはその日記を開き、中を覗き込んだ。日記には、謙二の心情や日々の出来事が綴られていたが、その中に一つ、気になる記述があった。


「呪われた夜、雨の夜に現れる亡霊…」


その言葉が、村人たちの心に冷たい恐怖をもたらした。霧雨村には古くから伝わる伝承があり、雨の夜には亡霊が現れると言われていた。村人たちは顔を見合わせ、不安げな表情を浮かべた。


「亡霊の伝承…ですか?」


一人の村人がつぶやくと、山本進がうなずいた。


「そうです。この村には古い伝承があります。雨の夜、霧雨村には亡霊が現れると…。藤村さんの失踪とこの伝承に関連があるのかもしれません」


その言葉に、村人たちはさらに不安を募らせた。雷鳴が再び轟き、集会所内に響き渡る。その音に怯えるように、村人たちは震えながら山本の言葉に耳を傾けた。


村人たちは藤村家から避難所に戻り、山本進の話を続けて聞くことにした。山本は古い地図を広げ、指で示しながら語り始めた。


「この地図には、呪われた場所が記されています。藤村家の近くにある古い廃屋…そこが重要な手がかりかもしれません」


その地図を見ながら、村人たちは震える手で指し示された場所を確認した。雨は一向に弱まる気配を見せず、ますます激しさを増していた。


「この廃屋に行けば、何か手がかりが見つかるかもしれません」


一人の若者が勇気を振り絞って言った。しかし、誰もその言葉に同意しようとはしなかった。廃屋は村人たちの間で「呪われた場所」として忌避されていたからだ。


「まずは雨が止むのを待ちましょう。そして、明日、再び捜索を続けることにしましょう」


山本進の提案に、村人たちは静かにうなずいた。外は未だに雷雨が続き、暗闇に包まれていた。避難所内には重苦しい沈黙が流れ、誰もが藤村謙二の無事を祈りながら、その夜を過ごすこととなった。


謙二の書斎で見つかった古びた日記と山本進が指し示した「呪われた場所」の地図。これらが事件の鍵を握ることになるのだろうか?そして、藤村謙二の行方はどこに?村人たちは不安と恐怖の中、次の一手を考え始めた。



次回、刑事の夏川遼が霧雨村に到着し、藤村家の内部調査を開始する。そこで彼が発見する驚愕の事実とは?謎が謎を呼ぶ展開が続く。

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