第28話:沙都希の過去。

「あ・・・ごめんね、昔のカレの話なんかして・・・聞きたくないよね」


「そんなことないよ、俺は沙都希のすべてを知りたいって思ってるから」

「あ、でも話したくないことは話さなくていいから・・・」


「でも・・・」

「祐も自分の過去のこと話してくれたし、私も全部白状しちゃおうかな」

「嫌われたら困るけど・・・いい?」


「ああ、いいよ」


「私ね、物心つく前にお母さんがお父さんと離婚したんだって・・・」

お父さんは日本人だったんだけど、お母さんはフィリピン人なんだ、

だから私、母子家庭で育ったの」


「でも私が16才の時、お母さんが病気で亡くなって、私一人残されたの」

「それから家庭裁判所のお世話になって、施設に入ることになって・・・」

「でもそこも馴染めなくて、ちゃんとしたお仕事に就きたかったけど

学歴がないから、正規では雇ってもらえなくて、生きてくために夜のお店で

働くようになったの・・・食べていかなくちゃいけないからね」


「そんなお店で働いてたから、いろんな男が寄ってくるんだよね」

「最低でクズみたいなヤツばかりだった」

「だから男はみんなそんなもんだと思ってたの、その頃はね」

「そんな世界にいるから心は荒んでいく一方・・・」


「で・・・私、いつまでもそんな暮らししてたら終わるって思ったから

美容師になろうって思ったの・・・

美容師なら住み込みだってできるし、学校の学費もお店が出してくれる

からね」

「国家試験受からなきゃ美容師にはなれないから、講習会にも積極的に参加して

勉強したの?」

「大変だったけど、それでも元の暮らしに、もどるよりマシだった」


「そんな時、カレに出会ったの・・・カレだけが、まともな人だった。

私、そんな人に出会ったことなかったから、これで幸せがつかめると思ったの・・・

でも、結局そのカレとは、うまくいかなかった」


「お互い若かったし、わがままも出たし、よく喧嘩もしてた・・・

カレの愛は、ほんとにまっすぐで純粋だったけど、それが私には重く感じたの・・・

カレは自分の思い通りにならないとキレるようになって、私を束縛しようとした」

そんな生活が耐えられなくなって、ある日、私のほうから別れようって・・・

ほとんど一方的だった」


「本当に悪いことしたって思うけど、一緒にいたらお互い傷つくって・・・、

いつか、壊れちゃうと思ったから別れるしかなかったの・・・」


「そうやって私の人生はリセットのしっぱなし」


「別れたカレのことは4年の月日が少しづつ忘れさえてくれたけど、でも自分の

生活は変わってなかったから、環境を変えたかった・・・

で美容師さん募集の張り紙を見つけたの・・・」


「それで、うちへ来たってわけか・・・」


「そう・・・でもそれは正解だったって今は思えるの」

「あのまま前の美容室にいたら、きっと私、病んでたと思う」


「そうか苦労したんだな」


「私、喜代さんと祐に出会えてよかった・・・」


「俺は沙都希の人生の一部になれてよかったよ」


「一部なんかじゃなくて、悠は私の全部だよ」


つづく。

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