第29話:沙都希の決心。

好きな男に自分の過去の話をしたのは、二人目だった。

別れた颯太と祐。


「俺はまだ恵まれてるな・・・」


「俺んちの親父は俺が生まれてすぐ、亡くなったんだけど、」

「でも俺にはまだ、お袋がいてくれたからな・・・」


「沙都希には甘えられる家族がいなかったんだもんな」

「沙都希に比べたら俺の苦労なんてたいしたことないよ・・・」


「君だって・・・祐だっていっぱい苦しんで来たでしょ」


「まあそれは自業自得だよ」

「自分さえバカやんなきゃ起こらない事故だったんだし・・・」


「最初は亡くなった子の償いのために生きなきゃって思ったけど」

「今は生きる目的が愛する人のために変わったからな」


「それはいいこと?」


「ああ、いいことだよ・・・俺にとってはね」

「明るい方向へと舵きりできたんだからな・・・」


「そか・・・祐がそうなら私も嬉しい」


「あ〜あ、全部話しちゃったね・・・」

「私、本当は自分の過去のこと、祐に知られるのが怖かった」

「でも今なら、言える気がして・・・」


「ね、分かったでしょ・・・私、祐が思ってるような女じゃないかもよ・・・」

「過去は腐ってた女だよ」

「・・・軽蔑していいんだよ?・・・私のこと」

「本当は、して欲しくないけど・・・」


「俺が沙都希のことをどう思ってるか勝手に決めつけない」

「人の価値って、そんなことじゃ決まらないだろ」

「過去に何かは、あったんじゃないかとは思ってた・・・」

「うちに来た時はバリア張ってたからな、自分じゃ気付いてなかったと思うけど」


「でも嫌いになんかならないさ」

「誰にだって、人に言えない過去くらいあるよ」

「俺だってそうだから」

「それも全部ひっくるめて俺が沙都希の面倒みる」

「とにかく俺が沙都希に惚れてるんだから、それでいいだろ、それがすべてだよ」


「祐・・・いいの?」


「あのさ、いくら過去に辛いことや悲しいことがあったとしても人間、今を一生懸命

生きてりゃいいんだって思わないか?」


「今の沙都希の瞳は綺麗だよ・・・澄んだ綺麗な瞳をしてる」

「きっと今は心に、わだかまりも曇りもないからだよ」


「嘘言ってないの分かるから・・・俺は今のお前が好きだ」

「それに自分じゃ気づいてないかもしれないけど、沙都希の中から威圧感みたいな

ものがなくなってる・・・」

「それは、沙都希が俺とお袋に心を許してるからだよ」


「そうなんだ・・・気づかなかった」


「私、もっと素直になるね」

「がんばって一生、祐についていけるような、いい奥さんになるから」


「おっと、言ったな・・・それって逆プロポーズか?」


「あ・・・」


つづく。

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