第6話:一方的な別れ。

「僕が全部悪いのか・・・」


「そんなこと言ってないし・・・私にだっ てダメなところはあったよ」

「だから努力しようとした」

「でも、もう限界」


「君だって本当は、私たちうまくいかないこと分かってるでしょ」

「これ以上一緒にいたって、いいことなんて何もないってこと・・・」

「だから別れよう・・・ん〜ん、もう別れる」

「次に誰かを好きになったら自分のエゴを押し付けるのだけはやめてね」


颯太そうたは子供みたいに号泣した。


「もう・・・男の子なんだから泣かないの・・・帰れないでしょ」

「君が泣くと私も辛くなっちゃうよ」


沙都希さつきがいなくなったら僕はどうすればいいんだ?」


泣きじゃくりながら颯太はそれだけ言うのが精一杯だった。


「だだっこみたいに・・・」

「君は子供だよ・・・おもちゃを無くしちゃった子供・・・もっと大人に

ならなきゃ」

「次は私みたいじゃなく、君にふさわしい人を探して・・・」

「私一人がすべてじゃないでしょ・・・」

「もう終わりにしよう・・・」


沙都希の瞳からも涙がこぼれ落ちた・・・。


秋も深まったオレンジ色の公園には沙都希と颯太しかいなくて、公園に

立ってる丸い時計の針が10時を過ぎようとしていた。


沙都希は腕時計を見た。


公園の時計は狂っていて30分遅れていた。


「こんな時間・・・帰らなきゃ」

「いっぱいしゃべっちゃったから疲れちゃった・・・」

「もう何を言っても私の気持ちは変わらないからね」

「もう行くから・・・」


「奏太・・・君、大丈夫だよね・・・」


沙都希は颯太の顔を覗き込んだ。

彼は首を横に振った。


「僕はまだ別れるって言ってないの に・・・勝手だ」


颯太にはもう男のプライドなんてどうでもよくなっていた。

逆らって一方的な彼女を困らせたかった。


「抵抗してもダメ・・・ダメだよ、そう言うの」

「未練だよ・・・しっかりしなさい」


沙都希は颯太を優しくハグして耳にキスをした。


いつもと変わらない沙都希のいい匂いがした。


「君のこと本気で、心から好きだったよ奏太」

「君も私を今日まで愛してくれてありがとう」


「元気でね、颯太」


そして沙都希はおもむろにベンチから立ち上がった。


「じゃ〜ね、行くね・・・さよなら」


そう言って沙都希は颯太をひとりベンチに残して歩き始めた。


颯太の目には去っていく沙都希の後ろ姿がぼやけて見えなかった。

やがて沙都希は公園の街灯の明かりが届かない闇に消えていった。

ヒールの足音だけが静かな公園に響いていた。

彼女がいなくなったベンチで颯太は、ただ泣くことしかできなかった。


「明日から、僕の沙都希はいないのか?・・・」


あとになって颯太は思った。


「沙都希、愛してたよ・・・幸せになってね」


その言葉は彼女がいる時に言ってあげればよかったと・・・。

でも笑ってさよならなんて、できなかっ た。


沙都希と颯太の恋は終わった。

愛と言う一つの感情だけでは成り立たないのが男と女の関係。

颯太がもっと大人でいたら実った恋だったかもしれない。


つづく。

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