第5話:すれ違う愛の形。

私ね、美容師になる前は怪しげな店で働いてたことがあって・・・

男がたくさん寄ってきてたの・・・」


「でも私に寄ってくる男はみんなクズばかり・・・」

「みんな私の体が目的・・・男なんてみんなそんなもんだと思ってた」

「君と出会うまではね」


「君みたいな純粋で真面目な人も世の中にはいるんだって思った・・・」

「君と出会って私はそう言う人に今まで運悪く出会わなかったんだと思ったの」


「これで本当の恋ができるって、すごく期待した」

「私の思った通り、君は他の男とは違った」

「純粋な気持ちで私を愛してくれた」


「私の過去についても何一つ聞かなかったし」

「偏見で私を見たりしなかった」

「過去はどうでもいい、今が大事なんだよって言ってくれた君の気持ちが

嬉かった」


「私も君の想いに応えようと思った」

「そのくらいまでは君の純粋さが新鮮で心地よかった」

「だから君が望む理想の女になろうと思ったの・・・」


「でも、私はもともとそんな女じゃない・・・ 君が思う綺麗で清楚で上品な

おネエさんになんかなれないの・・・」

「君は私の中に君の理想の女性像を見てたんだよ・・・」

「君が望んだ理想的でどんぴしゃだったのは、たぶん私の顔だけ」


「まあ最初は私もそうだけど・・・君は私のタイプだったから」

「でも君は私の内面まで変えようとした・・・」

「そんなこと望まれても無理だよ」


「いつしか君のその真っ直ぐで怖いくらい の気持ちが 私には負担になっていたの」

「最初は君の優しさが私を浄化してくれるって思ってた」

「でもそれは優しさじゃなく君のエゴだった」


颯太はなにも言わず沙都希の話を聞いていた。

いや聞いてなかったかもしれない。

今はそんな悠長に沙都希の話を聞いてる気分じゃなかった。

いきなり別れようって言われたんだぞ・・・そう思っていた。


「どこかで歯車が狂い始めたんだよね」

「計算どおりにはいかないんだ、男と女って」

「愛情が募り過ぎると、それは束縛になっちゃうでしょ」


「君の一途な想いが私を締め付けた」

「君の強い感情がぐいぐい私の中に入ってきて、私は抱えきれなくなった」

「ひとつ間違えたら君はストーカーだよ」

「そうならなかったのは君に理性があったからだと信じてる」


「時々君はパニクると自分をセーブできずにキレそうになった」

「君は繊細なガラスだよ、いつ割れるかもしれない」

「その破片が私の心に、いつか突き刺さる気がした」

「どうでもいいことで喧嘩もしたでしょ、傷つけあって・・・それでなにが

残った?」


「これ以上一緒にいたら、もっとお互いが 傷つくって思ったから」

「だから別れるって決めたの」


「僕はもう充分傷ついてるよ」

「壊れそうだよ」

「愛してるんだ・・・沙都希・・・」


颯太は沙都希を見てすがるようにそう言った。


秋の公園は静かだった。

公園のベンチにいるのは沙都希と颯太だけだった。


「そんな目をしてもダメ・・・私はもう君とやってく自信ない」

「今更、やり直せないよ・・・」

「だからね、別れよう・・・それが君のためでもあるし、私のためでもあるの」


「お願い、ね、そうしよう」

「今夜、このまま、さよならしよう・・・」

「これが私の最初で最後のわがままだよ・・・」


「勝手だよ、自分だけ先走って」

「僕の想いは気持ちはどうなるの、こんなに愛してるのに」


「君は愛してるってそれだけだね・・・」


「だってそうだもん」

「沙都希は自分の都合で自分のわがままで僕を置いてきぼりにするんだ」


「君のそう言うところが私には重いんだよ」


そんなこと言われても・・・僕が全部悪いのか・・・」


つづく。

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