第3話:最初は相思相愛から始まった恋。

出会った頃のふたりは幸せだった。

最初は颯太そうた沙都希さつきと会えるだけで、それでよかったし

嬉かったし楽しかった。


沙都希は自分に暗い過去があることを颯太に話しておこうと思った。

黙ったまま颯太と付き合うことはしたくなかった。

全てを知ってくれて、それでも自分を選んでくれるなら、沙都希は喜んで

颯太の彼女として生きていけると思った。


「あのさ・・・私、人に言えない過去があるんだけど・・・そういう女でも

いいの?」


「今が大事なんだから沙都希の過去になにかあったとしても気にしないよ」

「それに誰にだって人に言いたくないことだってあるし・・・」

「だから、なにも言わなくていいよ・・・逆に聞いちゃうと気になったりする

からね・・・」


「そうなんだ・・・じゃ〜いいんだね・・・」


沙都希は颯太となら、うまくやっていけるかもって思った。

それからも颯太は沙都希の過去のことは一度も聞かなかった。


沙都希は過去に男性経験はあったが、颯太は今まで一度も女性経験はなかった。

ふたりの関係は沙都希が歳上と言うことあって常に沙都希がリードする形に

なった。

そんな関係であるがゆえに颯太は沙都希に対して母性を感じていた。


お互いが素直でさえいたら、この恋愛はうまく行くはずだった。

なにかが狂い始めたのは颯太の大人になりきれていない未熟な性格が表れ始めた

頃からだった。


包容力がないと言うか器が小さいと言うのは消極的な性格から来ているんだろう。

気が短いと言う欠点もあった。

それでも暴力を振るうようことはなかったが・・・沙都希にかまって欲しくて

無理をせがんだり沙都希が興味をひくような嘘をよくついた。


平日、沙都希と、なかなか会えないってことが颯太に猜疑心を芽生えさせた。

自分と会ってない時の沙都希の動向が気になってしかたがなかった。

自分以外に男がいるんじゃないか?

疑えば、疑うほど妄想はどんどん膨らんでいく。

そのことを口にすると、沙都希に、くだらないって否定される。


そうしてふたりの間ですれ違う日々が続いていく。

心とはうらはらなこと、言わなくてもいいことを口走る颯太。

そういう颯太を持て余す沙都希。


奏太の愛は、ほんとにまっすぐで純粋だったけど、それが沙都希には重く

感じるようになっていった。


こんなに好きなのに・・・。

思いが強すぎて、方向性を失ったままひとり空回りの奏太。

そして奏太は自分の思い通りにならないとキレるようになって沙都希を

束縛しようとした。


颯太はまだ17才、社会に揉まれていない世間しらずの子供だった。

そしてを沙都希を美化しすぎるあまり自分の理想を彼女の中に描いていた。


有り余る愛、両手で抱えきれない愛・・・理想と現実の狭間で沙都希は葛藤した。


男経験のある沙都希と初恋に等しい颯太との愛にはかなりの温度差があった。

沙都希はどこか冷めていたが、颯太は熱い想いに溢れていた。


「こんなに愛してるのに・・・」


奏太の心はそればかりで大事なことが何も見えてないのだ。


彼が愛情を押し付けてくるごとに沙都希の気持ちは少しづつ離れていった。

束縛されたくない、もっと自由でいたい。


それでも沙都希は奏太のことを嫌いにはなれなかった。

彼のことは本気で愛していた・・・つもりだった。


でも愛だけじゃ、成り立たないのが男と女。

どんどんすれ違っていく思い、取り戻せない時間。

沙都希は苦しかった、ささやかでいい・・・わずかでも安らぎが欲しかった。

でもそれは、もうきっと叶わないって思った。


颯太が変わらない限り・・・。


沙都希の心は傷つき、疲れ切っていた。

だから別れようと決めた・・・。


そして、それは突然だった。

ある日のデートの夜、公園のベンチに座って沙都希と颯太は自販機で買った

コーヒーを飲んでいた。


心地いい夜風がほほを撫でていった。

沙都希は颯太の横で、ひとつため息をついた。


そして言った。


「ねえ・・・私たち別れよう・・・」


つづく。

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