第2話:人生の分岐点。

颯太そうたにとって沙都機さつきは本当の意味での初恋の人って言ってもよかった。

学生時代に同級生を好きになったことはあったが、いずれも片思いのまま

思いを告白することもなく学校を卒業した。


でも、沙都希との出会いは、まるで雷に打たれたような衝撃的な出会いだった。

沙都希を一目見た時、颯太の体に電流が走った。

颯太にとって沙都希は、まさに自分のタイプ、理想の女性だったからだ。


保健室では言葉を交わすことなく沙都希と別れたが、颯太はそれから

彼女のことが気になってしかたがなかった。

店でお客さんに対応している時でも、どこか上の空だった。

で、辛抱たまらず芳樹に頼んで、沙都希を紹介してもらった。


沙都希も、最初に颯太を見た時、一目で彼に心を奪われた。

だから芳樹から颯太が会いたがってるって話を聞いて、迷わず彼と会う

ことを承知した。

再び会った颯太は子供のような純粋で汚れない青い瞳をしていた。

確かめるまでもなく沙都希のほうが颯太より、お姉さんでひとつ歳上だった。


*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


沙都希は物心つく前に母親と父親が離婚していて母子家庭で育った。

父親は日本人だったが、母親はフィリピン人、だから沙都希はハーフ。


だが沙都希が16才の時、彼女ひとり残して母親が病気で亡くなった。

それから家庭裁判所のお世話になって施設に入ることになったが、

沙都希には施設が馴染めず、外に出て自立することを望んだ。


ちゃんとした仕事に就きたかったが学歴がないから正規では雇ってくれる

ところは少なく、生きてくために夜の店で働くようになった。


とりあえず食べていかなくちゃいけないから・・・。


そんなお店で働いていると、いろんな男が寄ってくるようになる。

砂糖にたかるアリみたいに・・・。

特に沙都希はスタイルも良く綺麗だったから、なおさらだった。

みんな沙都希の体が目当て・・・最低でクズみたいなヤツばかりだった。


だから沙都希の心は荒んで行った。

沙都希に寄ってくる男はみんな自己中で虚栄心が強くて身も心が腐ってる。

そんな男しか近くにいないから沙都希は男なんてみんなそんなもんだと思っていた。


そんな世界にどっぷり浸かっていると心は病んで疲れていく一方・・・。

半ば、どうでもよくなり始めていた。


ある日、店のママさんに言われた。

今のままならダメ女で終わるよ、って生きる目的と目標を持ちなさいって。


沙都希は自分でもいつまでもこんな暮らししてたら終わるって思った。

だから、まともな仕事に就かなきゃと思って美容師になろうと決心した。


幸いにも友人に美容師の子がいた。

だからその子を頼った。

美容師なら住み込みだってできるし、学校の学費もお店が出してくれる。

インターン生のお給料なんて子供のお小遣いくらいしか貰えなかったけど

それでも今の暮らしよりはずっとマシだった。


だから夜の世界から綺麗に足を洗った。

沙都希が運が良かったのは、ロクでなしのヒモ男がつかなかったことだった。


それが沙都希の運命のひとつの分岐点だったかもしれない。


インターンをしながら、美容室に通って、そして無事学校を卒業して、

今は、市内で一番有名な美容室に勤めていた。


そして期せずして出会った奏太はこれまで出会ったどの男とも違っていた。


美容室も理容室も平日営業が終わるのは、ほぼ9時過ぎ・・・門限は10時。

少ししか会えない。

だから月曜日の休日だけが、ふたりの唯一の時間だった。

それでも、さずかな時間でさえ、ふたりはデートを重ねた。


颯太の愛情はまっすぐでブレないものだった。

沙都希の体が目的だった男どもと違って、純粋な気持ちで自分を愛してくれた。


沙都希は、そんな人に出会ったことなかったから、もしかしたら颯太となら

幸せがつかめるかもしれないと期待を持った。


つづく。​


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