第35話 二人で行こう――②

 翌朝、キアラはリリに起こされた。

「もう、いつまで寝ているのですか」

「……寝たの、遅かったんだよ。――ユズはもう少し、寝かせておいてあげて」

 キアラがあくびをしながら言った。


「ブラックドラゴンの襲撃のことで、分かったことがあるんですわ」

「――手引きした人がいたってこと?」

「……知っていたのですか?」

「まあね。しかも本気の襲撃じゃないだろ。お粗末だったし」

「ええ。それで、一連の事件のことでお話したいんですけど」

「じゃ、場所を移動しようか」

「あたくしの部屋へ行きますか?」

 キアラはよく寝ているユズを嬉しそうに眺め、「そうしようかな」と言って、部屋を出て行った。



 ユズは夢の中にいた。

 夢の中で、キアラがユズの頬を撫でていた――夢? ううん。現実?

「キアラ?」

 ユズが目を開くと、ユズの顔を覗き込んで頬を撫でていたのは――ナミクだった。

「嫌っ!」

 ユズはナミクを押しのけようとして――失敗し、ナミクに覆いかぶさられた。

「やめて!」

「あれ? 感じ、変わった? あららら。処女じゃなくなった? でもいいよ、別に。僕、気にしないから」

 くすくす笑いながら、ナミクはユズの服を脱がせようとした。ユズはナミクを思い切り突き飛ばし、「あたしは気にするし、キアラ以外は嫌!」と言って逃げた。


 ――あ!

 ナミクを突き飛ばしたとき、ナミクに触れた両手から無数のイメージがユズの脳裏に入り込んだ。それは、とても多くの濃密なイメージで、ユズは一瞬自分がどこにいて何をされそうになっていたのか分からなくなるほどだった。


 そして、それと同時に、白い光が部屋に現れ、ナミクめがけて矢となって降り注いだ!

「ユズっ!」

 キアラが部屋に現れ、すぐにユズを抱き締めた。キアラの後ろにはリリがいた。


「ユズ、だいじょうぶ? ……ごめん、油断して」

「平気よ。――ナミクは?」

「――いない。……でもきっとケガをしている。転移魔法で逃げたのだろうけど」

 さっきまでナミクがいたベッドは黒焦げになっており、そこには少なくない血が残されていた。

「すぐに追手を差し向けよう。リリ、協力してくれ」

「はい、キアラ様! ――お姉様に一度ならず二度も酷いことを! 許せませんわっ」

 リリは顔を真っ赤にして怒り、次にユズに優しい笑顔で「ブルードラゴン族の力で、きっと見つけてみせますわ! だから、安心してくださいね、お姉様」と言った。


「うん、ありがとう。――でも、あたし、その前に今視えたことを、話したいの」

「……何が視えた?」

 キアラが真剣な目で言う。

「あのね――」

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