第34話 二人で行こう――①

 今日は月明かりがきれいだ、とユズは思った。

 キアラの髪のような、白銀の月。その白い銀色の光の粒が部屋中にこぼれた。


「……キアラ、お願いがあるの」

「何、ユズ?」

「あたし、今日、ナミクが怖かった、とても」

「うん。行くのが遅くなって、ごめんね」

「だいじょうぶ。でね……キアラ。あたし、今すぐ――キアラと、したい。……キスだけじゃなくて。もっと。――ねえ、して?」

「……結婚式は?」

「いいの。あたし、キアラが好きだから――すごく。あのとき、それが分かったのよ。ねえ、キアラのしるしをあたしに、いっぱいつけて?」

「ユズ――」

 キアラの手が優しくユズに触れた――



 まるであの湖の中にいるよう。

 優しくてうねりがあって――高まりがあって。

 吐息が重なり、キアラをとても近くに感じる。

 そうか。

 こんなふうに、魂が混ざり合うことだったんだ――



「ユズ、どうして泣いているの?」

「だって。……あのね、すごく幸せなの。――でも。……キアラとあたし、寿命が違うって、気づいていたの、少し前に。だけど、考えないようにしていた。……だって、仕方のないことだから。でね、今ね、幸せだから――どうしてもそのことが頭に浮かんで頭を離れなくて……。キアラは、あたしが死んだあと、別の誰かと生きていくんでしょう? ――仕方ないんだけど。でも」


 魂に触れあった後では、逆にそれが我慢出来なくて。

 ユズはキアラにキスをした。

「キアラとこうするのは、あたしだけじゃないんだって思って」

 キアラはユズを抱き締めて、囁いた。


「ねえ、ユズ。本当に、僕の妃になってくれる?」

「うん」

「ユズの一生、僕にくれる?」

「うん」

「――僕の血を飲んで欲しい」

「え?」


「人魚の肉を食べると、不老不死になるっていう話は聞いたこと、あるでしょう? ドラゴンの王の血を飲むと寿命が延びるんだよ。――僕は即位前だけど、白銀のドラゴンだから、効力はあるはず」

「あたし、キアラとずっといっしょに生きていられるの?」

「うん。――ねえ、どこから飲む? 首筋? 心臓の近く? それとも……?」


 キアラがユズの耳元で何ごとか囁き、ユズは真っ赤になりながら「手! 手でお願いします!」と言った。

「えー、つまんない場所」

「つまんないとか、ないもん!」

 キアラは手首をちょっと触って、血を滲ませた。

「少しだけね、とりあえず。もしかしたら、他にも変化が出るかもしれないから」

「ん」


 ユズはキアラの手首に顔を近づけて、キアラの血を舐めた。

「ふふ……舐められると、ぞくぞくするね。もっと、舐めて?」

 と言いながら、キアラはユズの首筋に舌を這わせた。ユズの身体が反応してびくっとなると、キアラは嬉しそうに笑いながら「じゃ、もう一回」と囁いた。

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