第33話 ブラックドラゴンの襲撃と内部抗争③
「それで、そのシーラとやらを尋問しても、何も出て来なかったんですわね?」
リリが紅茶を飲みながら、言った。
キアラとユズとリリは、人払いをしたリリの部屋で話をしていた。
「ああ。洗脳されているのか、同じことしか言わなかった」
キアラはそう言うと、溜め息をついた。
「洗脳?」とユズが言うと「ああ、別にそんなに難しいことじゃない」とキアラが応えた。
リリが紅茶のカップを置きながら言った。
「ねえ、整理しましょう。まず、エフィムの使用人がキアラ様たちの食事に毒を盛って、そしてテラスから落ちて、死にましたわね。これは、風の力で落とされたのではなくて?」
「僕もそう思っている。風の力を持つものの仕業だ」
「そうですわよね。……風の力はグリーンドラゴンが持っていますわね。例えば、先ほどのアルト」
「ああ」
難しい顔をしてキアラは頷いた。リリが続けて言う。
「それから、あたくし、調べましたの。そのエフィムの使用人のことを。よく調べた、とエフィムは言っていましたが、資料は改竄されていたんではなくて? 貴族は貴族でしたが、没落貴族で、本来なら、ドラゴンの王宮に来られるはずもない身分でしたわ」
「……なるほど。秘密裏に何かやりとりがあったのかな?」
キアラが何事か考えながら、応えた。
「やりとり?」とユズが口を挟むと、、キアラが「例えば、毒を盛る代わりに、家の復興を手伝う、とか、或いはドラゴンの能力を授ける、とか」と言った。
「毒は、飲んで死ねばラッキー、くらいのものだったかもしれませんわね。或いは、死ななくても排除出来ればよかった。――お姉様を」
「あたしを? なぜ?」
「ユズは《渡って来た人》だろう? そして、能力を附与されている。そういう人間とドラゴンのハイブリッドは、より強力な――最強のドラゴンが生まれる、と言われているんだよ」
キアラが言う。
「……あたし、そんなの知らなかった」
「うん、言ってなかったしね」
キアラがにっこりする。
「ねえ、どうして言ってくれなかったの?」
「だって、僕はユズが《渡って来た人》だから結婚したかったわけじゃなかったからね。――ユズがユズだから、好きなんだ。それだけなんだよ。能力があってもなくても、僕にはユズしかない。ただでも、ユズがずっとマイナスに考えてきた精神感応はとてもすばらしいものなんだよっていうことは伝えたかったかな? だってその能力はユズの一部なんだから」
キアラはそう言うと、ユズにキスしようとして――「はいはい、それは後にしてくださる? キアラ様」とリリに言われた。
「本当に、お姉様しか目に入っていないんですから」とリリはぶつぶつ言っていた。
「さて! いちゃいちゃなさるのは、お二人のときにしてもらうとして――ナセル王子を殺したのは誰か、ですわね」
「……誰なの?」とユズ。
「ナミクと違って、ナセルとは友好関係を築いていたんだ。温厚で争いを好まない、優しい方だったよ。どうしてナセルが?」
「だから、殺されたんじゃなくて?」
「僕と友好的なグリーンドラゴンだから?」
「ええ――殺したのは、同じグリーンドラゴン族ではないかしらね」
リリは真剣な目で応えた。
「……レッドドラゴン族がずっと権勢を誇っていたのは、王の外戚であることが多かったからだ。次に多かったのが、グリーンドラゴン族。でも、僕の母上はブルードラゴン族だ」
「そうですわね。次代の王の母が正妃ですから、正妃はレッドドラゴンであることが多く、時折グリーンドラゴンでしたわ。でも、今回本当に久しぶりにブルードラゴンのルル様が正妃となられたのよ。……焦ったのでしょうね、グリーンドラゴン族は。そして、なんとかしようとして――キアラ様と友好的なナセル王子は邪魔になったんじゃないかしら」
「ねえ、犯人がレッドドラゴン族じゃなくて、グリーンドラゴン族だって思うのはどうして? レッドドラゴン族だって、焦ったかもしれないわ」
ユズが訊くと、キアラは「レッドドラゴン族がナセルを殺して何のも利もないよ。僕を殺すならともかくね。ナセルは王位継承からは遠いところにいた。それに――ユズも感じただろ? ナミクやアルトの心の内の、禍々しさを」と言い、リリも深く頷いた。
「心を閉ざして隠してましたけれど――漏れ出ていましたわね。しっかりと」
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