第32話 ブラックドラゴンの襲撃と内部抗争②

「リリ」

 リリはユズとナセルの間に立って、「ナセル王子、何をなさっているです?」と厳しい声で言った。

「リリ。なんでここで出てくるのかなあ」

 ナセルはくすくす笑って言い――美しい姿だからこそ、不気味な笑いだった――「じゃあ、僕は退散するよ。――とりあえずね」と言って立ち去った。


「リリ、ありがとう」

「いいえ。お姉様、だいじょうぶですか?」

「うん、平気。……怖かったけれど。来てくれてありがとう」

「それは、お姉様が『たすけて』って言いましたから」

 リリはそう言うと、にっこりした。

 ユズは身体中の力が抜けて、そこに座り込んだ。「そうか。思念伝達……」

「たぶん、キアラ様もすぐに来ますわよ。戦っていたから、あたくしより遅かっただけで」

 リリがそう言い終わらないうちに、「ユズ!」と言う声とともに、キアラがふっと現れた。


「ユズ、だいじょうぶ?」

 キアラに抱き締められ、ユズの目には涙が浮かんだ。

「怖かった……!」

「ごめん、すぐ来られなくて」

「うん、でも、だいじょうぶ」

 ユズがキアラに抱き締められ、ほっとしているところへ人影が射した。顔をあげると、アルトだった。グリーンドラゴン族の妃候補。


 あ! とユズは思った。

 ナミク王子が誰かに似ている、と思ったその相手はアルトだ。……そっくりだ。美しくたおやかなでありながら、何か黒いものを抱えていそうな、その雰囲気が何よりそっくりだった。性別が違うから、すぐには分からなかった。


「アルト。……何の用だ」

 先ほどのナミクの振る舞いがあるので、キアラの声はどうしても厳しくなった。

「ふふふ。ユズ様に用があるんです」

「ユズに?」

「ええ。ユズ様――あなた、わたくしの同族のナセル王子を殺しましたね?」

「え?」

 思いもかけないことを言われ、ユズは固まってしまった。


「何を言っている……! そんなことあるはずないだろう‼」

 キアラが言い、リリも「そうですわよ。お姉様がナセル王子を殺す理由はありませんわ」と言った。

「でも、わたしくしの使用人が見ているんです。――シーラ、来なさい」

 シーラと呼ばれた人間がおずおずと現れた。

「シーラ、あなた、見たでしょう? ユズ様がナセル王子の後をつけているのを」

「は、はい。見ました」

「そんなはずはない! ユズは常に僕といっしょにいる。ナセル王子が殺された時間だって、僕といっしょだったはずだ」

「あらあら? そんなこと、グリーンドラゴン族は認めませんよ?」


 アルトはそう言って、口元を隠してくすくす笑った。――ナミク王子とそっくりだ、とユズは思った。

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