第31話 ブラックドラゴンの襲撃と内部抗争①
襲撃の一報を聞き、キアラはすぐにそちらに向かった。――白銀のドラゴンの姿となって。
ユズはキアラが飛んで行くのを眩しい気持ちで見つめた――大変な状況だとは分かっていても、キアラのドラゴンの姿を見ると、胸の奥が熱くなって鼓動が早くなるのだった。
キアラが滑空して行った方を見ると、何匹もの色とりどりのドラゴンが翼を大きく羽ばたかせながら、襲撃あった北の塔の方へ向かっていた。
ひと際まばゆい白い光が見えて、キアラが雷撃を放ったことが分かった。炎や水撃も花火のように空中で破裂するように放たれ、壊れた塔の黒い煙とともに激しい光がいくつもいくつも光った。
どうやら襲撃も大きなものではなく、ホワイトドラゴンがブラックドラゴンをすぐに制圧して終わりそうだった。
ユズがほっとひと息をついて、胸をなで下ろしたところに、近づいてきた人物がいた。
「――誰?」
その人物は、緑の――少し黄色がかった緑の髪と瞳をしていた。白い肌に長い真っ直ぐな髪。優雅な雰囲気で、切れ長の瞳と線の細い身体つきは――誰かに似ていた。誰だろう? ユズは脳内を検索したが、うまく出てこなかった。
「ナミクだよ。グリーンドラゴンの」
「……アリー妃の息子の?」
「そう」
ナミクは笑った。――だけど、ユズにはそれは笑い顔には見えなかった。もっと、禍々しい表情。
「……ナミク王子……」
ユズは、先ほどナセル王子が殺された、という報告があったことを思い出した。ナセル王子はナミク王子のすぐ上の兄だ。――そのことで何か?
ユズはナミク王子の心を読もうとした――しかし、うまく行かなかった。禍々しい表情を貼り付け、心は固く閉ざされその中を伺い知ることは出来なかったのだ。
「ねえ」
ナミクは一歩、ユズに近づいた。
ナミクから何か恐ろしいものが出ているような気がして、ユズは一歩下がった。
「何? ナセル王子のこと?」
「ああ。……ふふっ」
「何、笑っているのよ」
「いや。――ねえ、ユズ。キアラなんて放っておいて、僕にしなよ。僕の方が、ユズを楽しませてあげられるよ。……それに、きっと僕はうまいよ」
くすくす笑いながら、ナセルは言う。
ユズは後ずさりながら「どういうこと?」と言った。
――怖い。
ユズの中に底知れぬ恐怖が湧き起こった。心臓の音が恐怖で速くなる。
ナセルはユズの黒い髪を一束取ると、その髪に口づけした。
「あれ? ……キアラとまだしてないんだ?」
そう言って、声を出して笑った。実におかしそうに。
「ははっ! あいつ、何してんの? ――でもじゃあ、ちょうどいいや。僕がしてあげるよ。ねえ、絶対に気持ちいいよ」
ナセルの顔が近づいてきて、ユズは全力でナセルを突き飛ばした。
「あれえ? なんで?」
「なんで、じゃない! 嫌っ!」
ユズは全力で逃げた。
ナセルはくすくす笑いながら追いかけて来る。しかし、距離はどんどん縮まる。――どうして⁉ 誰か――!
そのとき、蒼い影が過り「お姉様っ!」という声がした。
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