第30話 白銀のドラゴンを巡る争い②

「キアラ、じゃあ、何から調べよう?」

 キアラの部屋に戻り、ユズがそう言うと、キアラはなぜか「んー、まず、湯殿に行こうよ」と言った。

「は? ……えーと、湯殿に何か証拠でもあるの?」

「とりあえず、ね?」

 キアラの美しい笑顔で頼みごとをされると、なんだかもう断れなくなってる……!

 ユズは混乱した頭でキアラに手を引かれて、湯殿に向かった。


「ふふふ。嬉しいね。昼間から、ユズと温泉に入れるなんて!」

「キアラ……」

 この人は今、大変な状況だって分かっているのかしら?

「分かってるよ」

 声に出さなかった部分にキアラは応える。


「ホワイトドラゴンはブラックドラゴンと争っている。それだけでもなかなか大変なんだけど、ホワイトドラゴンも一枚岩じゃないんだ。覇権争いでね。僕が、一番権力のあるレッドドラゴン族の妃の長子だったら、よかったのだけど。僕の母は一番力のないブルードラゴン族だし、末子の白銀のドラゴンだから。僕が生まれるまで、カデルが次期王だと目されていたんだよ」


「……どうして言ってくれなかったの?」

「だって! 僕はユズをどうしても妃にしたかったから。最初に、こんな状況だよって言ったら、絶対に来てくれなかったでしょ?」

 それはそうかも、とユズは思った。

 でも、今は違う。キアラのために何かしたい。

「ふふふふふ。ユズはもう僕のこと、大好きだし、ね?」

 湯殿に着いたところでキアラはそう言い、ユズのおでこにキスをすると、ユズの服を脱がし始めた。

「きゃっ。自分で脱げます! キアラはあっち向いててっ」

「えー」

 


「ねえ、キアラ。どうして温泉に入る必要があったの?」

「いいからいいから。向かい合って、僕の両手を握って」

「うん」

 二人はお湯の中に立っていた。

 ユズがキアラの両手を掴むと、キアラはユズのおでこに自分のおでこをつけた。


「ユズ――君の能力を解放して、それからコントロール出来るようにしよう。目を閉じて、僕の思念を感じて」

「――うん」

「気持ちを落ち着けて――そうだ、一緒に行ったあの湖を思い出して。水が澄んでいて、とてもきれいだったよね。緑も花も美しくて――あの美しい自然に溶け込むんだ。……どう? 静かで、美しいだろ?」


 ユズはあのときの湖とキアラを思い出した。

 きらきらとした想い出。

 楽しかった。

「僕の思念、感じられる?」

 キアラの思念は水のようだった。あの、美しい湖の水のような。

「うん」


 湖に入り込む――音が消え、でもなんだか心地がいい。そして光が射していた。

 湖の中から、世界が見えた――すごい。いろいろなものを見透している。これがキアラの思念? 白い光のつぶがいくつもいくつも飛び、その一つ一つに世界が閉じ込められているようだった。


「ユズ。この先はきっと、声だけじゃなくて、映像も視えるようになるよ」

 キアラと接しているおでこが熱を帯びていた。

 おでこから、きらきらとした白い光が放たれているように、ユズは感じた。世界を包含している白い光のつぶが、キアラのおでこから流れ出している。

 そして、その白く輝く粒子がユズを取り巻いて、包み込んだ。そのあと、光はぱんと弾かれて、小さな小さな星のようにきらきらと同心円状に飛び散り、次にユズの中に吸収されていった。


 ユズは身体中に力が行き渡るのを感じた。そして、心の中の何かが開くのが分かった。――ずっと閉ざされていて――最近少しだけ開いていた扉――解放される――そして増幅していく――



「ねえ、キアラ。これって、もしかして湯殿じゃなくても出来たんじゃない?」

「んーでも、僕の力は水が媒介した方が伝わりやすいんだ」

「でもでも、服は着ててもよかったんじゃない?」

「まあ、そうとも言う」

「もうもう!」

「でもほら。ユズが服着ていない方が、僕の気持ちが上がるからさ! それに、もう今さら、じゃない?」

「違うもん! なんか違うんだもんっ」

 キアラとユズがじゃれあいながら服を着ていると、外から「キアラ様!」というモリスの切羽詰まった声がした。


「何だ?」

「すみません、お邪魔して。――大変なことが起きました」

「大変なこと?」

 エフィムの使用人が死んだことじゃなくて? とユズが訝しむと、驚くべき事態が告げられた。

「ナセル様が――ナセル王子が殺されました」

「ナセルが⁉」

 ナセル王子――グリーンドラゴン族のアリー妃の息子? 殺された? どうして?

 ユズがそう思った瞬間、爆発音が響き渡った。


『襲撃です! 黒の襲撃です‼』

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