第27話 リリと温泉と、黒い渦と①
「お姉様、おはようございます! 一緒に温泉に参りましょう!」
「リリ……朝、早いんだけど」
「うふふ。花嫁は、自分を磨くものですよ。さあさあさあ!」
「じゃあ、僕も」
キアラがそう言うと、「キアラ様は駄目です! 女性専用の湯殿ですもの」とリリはぴしゃりと言った。
「さあさあ」リリはユズの手を引く。
「僕のユズに触るな!」
「いいじゃないですの。女の子同士ですもの。……お姉様、ドレスは本当にごめんなさい! でも、今、ブルードラゴンの職人で直しておりますから。すぐ直りますわよ!」
湯殿に着くと、「まあ、お姉様、やっぱりスタイルがいい! ……ちょっと触っていいかしら」などと、はしゃぐ声が聞こえ、そばまでついてきていたキアラが「もうユズ、こっちに来て! リリから離れて!」と情けない声を出すのだった。
「キアラ、ここは女の子専用よ」
「ユズ……! 僕のユズなのにっ」
湯殿からはしゃぐ声が聞こえ、キアラはますます情けない気持ちになった。
「ねえ、ユズ。リリと一緒にいるの、やめて?」
「どうして? リリ、いい子よ? ちょっと幼いけど。あたし、妹みたいに思ってるの」
「でも、前に言ったよね? ユズに触れていいのは僕だけ」
「だけど、リリ、女の子だよ?」
「女も男もないんだよ! ユズは僕のもの。――リリ、殺すと面倒なんだよ。あれで血筋はいいし。ブルードラゴン族は母上の血筋でもあるし」
殺す? 何言ってるの?
ユズはキアラの剣幕に狼狽え、何を言えばいいのかとおたおたした。
「殺さなくても、王宮にいられなくすれば――」
キアラは暗い瞳でぶつぶつ呟き続けた。
ユズは思わず、「キアラ! 分かった。分かったから! リリとはとりあえず、温泉はいっしょに入らないからっ」と言った。
すると、キアラはぱっと顔が明るくなった。そして、「本当に?」と言って、にこにこした。
「うん」
「じゃあね、これからユズの着替えも僕がするね」
「いや、それは自分で」
「温泉には僕と入ろうよ」
「え? そ、それは恥ずかしいよ」
「リリとはいっしょに入ったのに――やっぱり、リリは
暗い目をしたキアラから雷光がぱちぱちと放たれたので、ユズは急いで「分かった! いっしょに入るから!」と言った。するとキアラはすぐに雷光を引っ込めて、「うん。分かってくれればいいんだよ。僕専用の湯殿があるから、ね?」とにっこりと笑った。
あれ? あたし、なんか失敗したかな?
とユズは思ったけれど、後の祭りだった。
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