第20話 旅立ち――自由へ!①

 数日、ユズがドラゴンの王国へ嫁入りするための準備が行われた。持って行くものを選別し、ドラゴンの王への土産も作られ、それからユズは親しい人たちと別れの挨拶をした。挨拶の場にはだいたいキアラがついてきて、ユズの後ろでにこにこしていた。ただし、ミフネと会うときは、恐ろしい形相をしていたのだが。


「ユズ……幸せに」

「ありがとう、ミフネ」

 ミフネがユズに手を伸ばすと、キアラがその手をはたいた。

「ユズに触るな!」

「握手しようとしただけじゃないですか」

「それもだめ! ユズは僕のものだから」

「ユズは物じゃない……です」

「関係ない! ユズに触れていいのは、僕だけ」


 そのようなひと悶着はあったが、おおむねユズのドラゴンの王国への嫁入りは好意的に受け入れられた。皆、ドラゴンの恵みを期待していたし、キアラも「この村にドラゴンの恵みをもたらそう!」と約束をしていた。



 旅立ちの日、ユズは美しく着飾って、白銀のドラゴンに乗った。

「ユズ!」

 ナツメが目に涙をためて、手を振った。

「お母さん! ――お父さん、カイドウ、シュロ、アンズ! ……みんな! あたし、ドラゴンの王国に参ります!」

 挨拶を済ませ、白銀の美しいドラゴンが翼を広げて羽ばたこうとしたとき、「ユズ! 行くな‼」という声が響いた。

 集まっていた村の人たちが声の方を見ると、ミフネだった。


「ミフネ……!」

「ユズ、行くなよ。――俺と結婚して、この村で今まで通りに暮らそうよ」

「……ミフネ……」

 ミフネがユズのことを好きなのは、誰もが知っていたし、ユズとの結婚話が出たのも当然だと思われていた。しかし今は、相手がドラコンでしかも王太子ではどうしもようないと、村中の人が思っていた。だから、皆、驚きと恐怖で息を止めるようにして、ミフネを見守っていた。


「うるさい!」

 ドラゴンが咆哮して、水球がミフネを直撃した。

「ミフネ‼」

 幾人かの村人がミフネに駆け寄った。

「ユズは僕のものだよ。いい加減にしてくれない?」

 キアラは身体中からぱちぱちと雷光を放ち、今にもミフネを直撃しそうになった。

「キアラ!」

 ユズの声で、キアラは大きく羽ばたき、高く空中へ飛び上がった。


「ユズは僕の花嫁だ。ドラゴンの王太子の妃となる。もう諦めろ、ミフネ! ユズはドラゴンの王国に連れて行くよ」

 白銀のドラゴンが羽ばたくときの翼の勢いで強い風が吹き荒れ、人々はみな地面に頭をつけ、その風圧に耐えた。

 そして、ユズを乗せたドラゴン姿のキアラはそのまま高く高く飛び、一声咆哮したかと思うと、あっという間に青い空の中に吸い込まれて行った。

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