第18話 ドラゴンの王国へ行きます②
人型に戻ったキアラは、村長の家に行きユズを花嫁とする旨を告げると、「かしこまりました」と震えながら平伏している村長を冷たい顔で見つめ、村長が顔を上げる前に村長の家を出た。
「キアラ、何怒っているの?」
「だって、村長は、ユズをミフネと結婚させようとしたからさ。赦せないよね!」
キアラは満面の笑みで言い、ユズはその笑顔がちょっと怖かった。
「だいじょうぶだよ。ユズのことはずっと大好きだから!」
キアラの白銀の髪が揺れる。
ユズはふと不安になった。なし崩し的にキアラと結婚してドラゴンの王国に行くことになったけど、あたし……本当にこれでいいのかな。
「ユズ」
キアラは立ち止まって、ユズの顔をじっと見た。
「な、何?」
「ユズは遠くに行きたいんでしょう?」
「うん」
「ドラゴンの王国にも行きたいんでしょう?」
「うん。――夢で見て、ずっと憧れていたから」
その映像を送っていたのは、キアラだったのだけど。
キアラはユズを抱き締めると、言った。
「今はそれだけでいいよ。ユズは僕のことが好きだし!」
その自信はどこから? と思うけれど、キアラに抱き締められると、やはり安心するのだった。そうして安心してしまうのは、理屈ではなかった。
家に着くと、ユズは、今度は両親に抱き締められた。
「ユズ……!」
ナツメはぼろぼろ泣いていたし、ソテツも目に涙を滲ませていた。普段はやんちゃなカイドウも神妙な顔をしていたし、シュロもアンズも目に涙をためて「お姉ちゃん」と言った。
「お父さん、お母さん……」
ユズはソテツやナツメの体温を感じながら、小さいころの想い出がぶわっと脳裏を巡り、懐かしさとか愛しさとか、そういう感情でいっぱいになり、目に涙があふれた。
「ユズ……!」とソテツとナツメが言い、「お姉ちゃあああん!」とカイドウたちが言い、まるで今生の別れのような状況だった。
「あのう」
キアラが声をかけると、「……すみません!」と言って、ソテツとナツメが慌てて平伏した。
「すみません、キアラ様」
「あの、僕、ユズを花嫁にするしドラゴンの王国に連れても行くけれど、ユズは里帰り出来るよ?」
「え?」
「一生の別れじゃないよ。安心して。ユズが帰りたかったら、ちゃんと連れて来るから。僕がユズの嫌がることをするわけないよ」
「……そうなんですか?」ほっとしたようにナツメが言い、「ありがとうございます!」とソテツが言った。
「うん!」
キアラはにっこりとして言うと、「でもユズは僕の花嫁になるからね?」と念を押した。
ソテツはふうと一息つき、それからユズに向かって言った。
「ユズ――お前は私たちの大切な娘だ。幸せになって欲しい」
「――はい」
「……お前の持っている能力のことは、なんとなく知っていたよ。それでも、何も変わらない。大切な娘なんだ。……本当に幸せになって欲しい。――キアラ様、ユズをよろしくお願いいたします」
ソテツとナツメが頭を下げ、カイドウたちも頭を下げた。
「安心していいよ。僕はユズが大好きだから! 大切にすると約束する」
「ありがとうございます!」
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