3.ユズの能力はすばらしいよ

第15話 夢の場所とドラゴンの争い①

 険しい山脈、ごつごつとした岩肌――ああ、でも、近づいていくと美しい湖があって草原と林が広がる。高原の花たちは風に揺れ――なんてきれい。

 雲海が見える。

 雲海に透けて光の手を伸ばす太陽。

 遠くには、雪の残る高い山々。雪の白さ。

 そこにはドラゴンが何頭もいて、自由に滑空したり寝そべったり――なんてのびのびとしているんだろう? レッドドラゴン、グリーンドラゴン、ブルードラゴン――色とりどりのドラゴンが風景を明るく華やかに見せていた。



「ドラゴンの国だよ、見える? 思念伝達でずっと送っていた風景なんだ――覚えてる?」

「見えるし――覚えてる」

 洞窟の中で、ユズはヒカリ――キアラのおでこに自分のおでこをつけながら、目を閉じていた。

 そう、ここは行きたかったどこかの一つ。

 夢でよく見ていた、憧れの場所。

 小さなころからずっと心の中にあった風景。


「いっしょにここに行こう」

「うん、ヒカリ――キアラ?」

「どちらでもいいよ」

 キアラはにっこりと笑う。

「……なんか、変な感じ。でも、本当の名前で呼ぶね」

「うん」

「キアラはドラゴンの王の子どもなのね」

「そうだよ。ホワイトドラゴンのね」

「ホワイトドラゴン?」

「ドラゴンはね、今、白と黒に分かれて争っているんだよ」



 ドラゴンは、大きく二つに分かれているんだ。

 ホワイトドラゴンと、ブラックドラゴン。

 白の王族、黒の王族で争っている。


 ホワイトドラゴンには、レッドRグリーンGブルーBのドラゴン族が属していて、ブラックドラゴンには、シアンCマゼンタMイエローYのドラゴン族が属している。

 ホワイトドラゴンはレッドRグリーンGブルーBのドラゴン族の王なんだよ。


 キアラ・ブルーWTホワイトっていう名前のBは僕の母がブルードラゴンの一族であることを表している。WTホワイトはホワイトドラゴンの王の直系の証。人型になれるドラゴンは、王の血が入った者だけなんだ。


 僕はホワイトドラゴンの王の子として生まれて――五歳のとき、ブラックドラゴン側に狙われて、誘拐されたんだ。途中で逃げて――だけど、傷を負って、飛べなくなった。

 夜の闇に、白銀の身体はひどく目立って、本当に不安だった。

 そのときだよ。

 ユズが傷の手当をしてくれて、僕を洞窟に隠してくれたのは。

 あんなにほっとしたことはない。

 敵の手から命からがら逃れて、黒い闇の中、僕の身体は浮き立つように目立って、追手を撒くことが出来たのかどうか、ほんとうに不安だった。翼をやられて飛ぶことも出来なくて。とても怖かったんだ。


 ユズ、君と出会えていなかったら、僕は生きていたかどうか分からない。

 ユズが僕を抱き上げて、この洞窟に連れてきてくれて、僕は安心して眠ることが出来たんだ。毎日、ユズが来るのが待ち遠しかった。いっしょにごはんを食べて、いっしょに眠って。

 だいじょうぶだよ、安心してって、ユズが話しかけてくれた。

 あのときのユズの優しさは、僕の心に沁み渡ったんだ。ずっと忘れない。

 僕はドラゴンで、まだ子どもだったから人間と話すことも、思念伝達で人間に言葉を伝えることもうまく出来なかった。だけど、少しは届いたよね? 聞こえたでしょう?


 ユズが僕の言葉を受け取ってくれて、どれほど嬉しかったか。その能力は本当に素晴らしいよ。人間がどうしてユズの能力を嫌がるのか分からない。

 ――あのとき、僕はユズが、人間の村で、少々居心地の悪い思いをしていることが分かったんだよ。

 だから、絶対に迎えに行くって決めた。

 大人になったら迎えに行くって。

 人型になれるのが待ち遠しかった。

 今度は、僕がユズを守ってあげるし、たすけてあげたい。

 何より、僕はユズといっしょにいたい。

 ずっと。

 ユズの能力は素敵だけど、能力があってもなくても、ユズはユズだから。


 僕はユズと一生いっしょにいるって決めたんだ。

 五歳の、まだ子ドラゴンだったあのときに。


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