第14話 迎えに来たんだよ――約束したから②
一瞬ののち、ユズはヒカリといっしょにあの洞窟にいた。
「ここ……あの、洞窟?」
「そうだよ」
「転移魔法?」
「うん、そう!」
ヒカリはにっこり笑う。
「ヒカリ。……あなた、いったい、何者なの?」
《渡って来た人》は世界を渡るとき、能力を附与される。しかし、一つだけだ。水の力に思念伝達、さらに転移魔法と、これだけ大きな力をいくつも附与された人の例を、ユズは聞いたことがなかった。
「その前に、僕、言いたいことがあるんだ、ユズ。……ねえ、覚えておいて」
ヒカリは美しい顔をユズに近づけて、言う。
「うん」
ユズは心臓がばくばくするのを感じながら応えた。
「ユズに触れていいのは、僕だけ。他の誰にも触らせないで? ユズにキスしていいのも――それから、もっとユズを気持ちよくするのも、僕だけ。いい?」
ヒカリはユズにキスをした。ユズはキスを受け留めながら、頷く。
「ユズは僕のものだから。ユズの、『初めて』は全部僕のもの」
「ヒカリ……ねえ、あなた、いったい、誰?」
「分からない? ……本当は、分かっているんじゃない?」
ヒカリはにっこりと笑った。
白銀の美しい髪。大きな蒼い瞳――そう、知っている。最初から、ひと目見たときから、ずっと似ていると思っていた。
「……あのときの、ドラゴン?」
「そうだよ、ユズ。あのときはありがとう、たすかったよ。……また会いに来るって約束したよね?」
「うん――覚えてる」
ユズは何度もあのときの声を思い出していたことを思って、顔を赤らめた。
ヒカリはそんなユズを抱き締めて、それからユズの顔をじっと見て言った。
「僕の本当の名前を教えてあげる。キアラって言うんだ」
「キアラ?」
「そう。キアラ・
「……迎えに?」
「そう。ドラゴンの花嫁に――王太子の妃として」
「ドラゴンの花嫁……!」
「ずっとユズのことを感じていたから、知っているよ。遠くに行きたいんでしょう。ドラゴンの国に行こうよ。遠くて、認められた人間しか入れない場所だよ」
あの草原の向こうの森の、さらに向こうは何があるんだろうとずっと思っていた。
空を行くドラゴンが飛んで行く先には、何があるんだろうとずっと思っていた。
そこに行けるの?
「ドラゴンと一緒なら、どこへでも行けるよ。人間には超えられない結界を超えて、どこへでも」
どこへでも――
それはどんな甘い言葉よりも魅惑的に、ユズの心に響いた。
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