第10話 みんなには内緒にしておいて?②

 小さいころ、よくこのような失敗をして、周りの人を気味悪がらせた。だんだん失敗することはなくなり、心の声に反応しないよう、なるべく迂闊に口を開かないようにしてきたけれど、気が抜けたのか、ほんとうについうっかり返事をしてしまったのだ。なんとか誤魔化そうとして――駄目だ、とユズは思った。


 ヒカリの顔を見て、分かった。

 誤魔化せない。

 どうしよう。どうしたらいいの?

 心の声が分かるなんて、気持ち悪いよね? あ、でも、全部聞こえるわけじゃないんだよ。

 ユズの目に涙がじわりと滲んだ。


「ユズ、泣かなくていいよ。だいじょうぶだよ」

「え?」

「ユズには精神感応の力があるんでしょう?」

「……全部分かるわけじゃないの」

「うん。僕には思念伝達の能力があるんだよ」

「水の力じゃないの?」

「水の力だけじゃないんだ。思念伝達も出来る。思念伝達は伝えようとする力で、受け取る側に力があれば、思念が伝わるんだ。ユズの場合は、伝えようとしない心の声が聞こえるんだね。精神感応って言うんだよ」

「……ヒカリ、どうしてそんなによく知っているの? 渡って来たときに記憶を失くしたんじゃないの?」

 ヒカリはユズのその問いに応えず、代わりに華やかに笑って、それからユズの唇に自分の唇をそっと重ねた。


「ヒカリ?」

 ユズは心臓が早鐘を打つのを止められなかった。

「ユズ、だいじょうぶだから。安心して?」

「――うん」

「能力を秘密にしているんでしょう? 村の人たちに」

「うん――小さいころ失敗して、気味悪がられたから」

「かわいそうに。ユズはこんなに優しくてきれいなのに」

 ヒカリはそう言うと、もう一度ユズにキスをした。


「……ねえ、どうして、キスをするの? 女の子同士なのに」

「好きだから」

 ヒカリはユズの頬を優しく撫でた。

「あたし、心臓がどきどきして。息が止まりそうなの」

「ほんとう?」

 ヒカリはそう言うと、ユズの心臓を触ってその音を確かめた。「ほんとうだ」

「ヒカリ。あたし、ますますどきどきするんだけど」

「ねえ、音を聞かせて? ユズの心臓の音」

 ヒカリはそう言うと、ユズの心臓に耳を寄せた。


 だめ。

 どきどきするのを止められない……!


「ユズの心臓の音、いいね。安心する――」

 ユズが何も言わないでいると、ヒカリはそう言って目を閉じた。

 美しいヒカリの頭が自分の身体にぴったりとついていて、ユズは、こんなこと、誰にも言えない、と思った。


 ねえ、ヒカリ。

 これも、内緒にしておいて? 

『だいじょうぶ。精神感応のことも、このことも、みんな内緒だよ』

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