第8話 ヒカリの能力とユズのうち②

「ユズ!」

 並んで歩き始めると、ヒカリはユズの腕にしがみついてきた。

「ちょ、ちょっと、歩きにくくない?」

「だって迷子になったら、困るから!」

 ヒカリはにこにことユズにくっついたまま、歩いた。

「まあ、いいけど。――ねえ、あたしのうち、そんなに大きくないよ。村長さんちの方が広いよ?」

「ユズのうちがいいんだもん!」

「……そう」


 村の人たちは、ユズとヒカリを遠巻きに見て何か囁き合っていた。

 あたし……っていうより、ヒカリを見ているのよね。

 ユズは、自分にぴったりくっついているヒカリを見た。

 ――ほんとうにきれい。

 整った顔立ち、大きな瞳に長い睫毛。白銀の髪はさらさらで、歩くたびに少し揺れた。

「ユズのうち、楽しみ!」

 ヒカリはユズを見て、花のように笑った。ユズは胸がどきんとした。

 笑顔、かわいい!

 みんながヒカリを見て噂をするのも仕方がないや。


 家に着くと、既に村長から伝令が飛んでいて、両親ときょうだいたちが家の前にいて、ユズとヒカリを待ち受けていた。

「おかえりなさい、ユズ」

 ユズの母、ナツメが言い、父のソテツも「おかえり」と言った。

 そしてソテツはヒカリを見て「そちらが――ヒカリさん?」と言った。

 ヒカリはナツメとソテツを見てにっこり笑うと、会釈をして「ヒカリです、よろしくお願いします」と言った。


「ヒカリちゃん、かわいい! ねえ、いくつなの? あたしは九歳だよ」

 ユズの妹のアンズが興奮したように言った。

「僕、十四歳です」

「十四歳! じゃあ、オレといっしょだっ」

 ユズのすぐ下の弟のカイドウが嬉しそうに言った。

「オレは一つ下の十三歳だよ、よろしくね!」

 もう一人の弟のシュロがにかっと笑って言った。

「じゃあ、そろそろおうちに入りましょう。いらっしゃい、ヒカリさん。これからよろしくね」

 ナツメが言って、みんなで家に入った。


「じゃあ、自己紹介しよう」とソテツは言い、「私がユズの父親のソテツだ。怪力の能力を附与された。こちらが妻のナツメ。天候を読むことが出来る。なかなか優秀だぞ? 私たちは夫婦でアルニタスに渡って来たんだよ」と、笑顔で言った。

「ソテツさん、ナツメさん。よろしくお願いします。ヒカリです」

 ヒカリは礼儀正しく頭を下げた。

「私の出身は日本だ。ヒカリさんは北の方の出身とか。国は?」

「――詳しいことは、忘れてしまって……」

 ヒカリはそう言うと、うつむいた。


「なるほど。時おり、渡ってくるときの衝撃で記憶が不確かになるということがあるが、ヒカリさんもそうなのだね。――気の毒に。一人で来たのかい?」

「はい」

「そうか。……では、ここがうちだと思って暮らしてくれるといい。子どもたちはユズ、カイドウ、シュロ、アンズの四人だ。年も近いし、仲良くしてやってくれ」

「ありがとうございます!」

 ソテツは目を細めてヒカリを見つめると、「ナツメ、ヒカリさんの部屋の準備は出来たかい?」とナツメに声をかけた。

「ええ。出来ているわ。ヒカリさん、あなたのお部屋に案内するわね」

 ナツメが立ち上がると、ヒカリが言った。


「あの! 僕、ユズといっしょがいいです」

「え?」と、ナツメとユズが同時に言った。

「ユズと? でもベッドは一つしかないわ」

「だいじょうぶです!」

 ヒカリはユズに抱きついて、にっこり笑った。

「僕、ユズといっしょがいいんです!」



「ねえ、ほんとうに、あたしの部屋がいいの?」

「うん!」

 狭い部屋のベッドにユズはヒカリと並んで座っていた。ヒカリは「僕、ユズといっしょがいいんだ」とにこにこした。

 ……どうしてこんなに懐かれたんだろう?

 ユズは不思議な気分になりながら――でも、悪い気もしなかった。

「ねえ、もう寝ようよ。僕、もう眠い。だって、遠くから来たから」

 遠くから?

 渡って来た、ということ?


 気づくと、ヒカリは布団に入り、すうすうと健やかな寝息を立てていた。

 ……あっという間に寝ちゃうんだ。

 ユズも布団にもぐりこむと、眠っているヒカリの顔をじっと見た。

 ヒカリ――やっぱり、あのドラゴンの子と似ている気がする。そんなわけないのに。この子は人間なのに。

 月光の中、ヒカリの髪はきらきらと輝いた。あのドラゴンがきらきらと輝いたのと同じように。

 ユズはヒカリの髪をそっと撫でた。

 やっぱり、なんだか懐かしいや。


 ヒカリは眠りながらユズにぎゅっと抱きついてきた。

 ユズはヒカリの温かさを感じながら、安らかな眠りについた。

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