第3話 白銀のドラゴンとの想い出③

 ユズはそのようにして、しばらくの間、白銀の子ドラゴンと過ごした。

 朝、洞窟に行き、ドラゴンにごはんをあげる。傷の治り具合を確かめる。家の用事などを済ませて、お弁当を持ってまた洞窟を訪れる。いっしょにお弁当を食べて、お昼寝したりして。

 どうしてだろう? この子は話さないけれど、なんだか側にいると安心する。

 ユズは白銀のドラゴンと寄り添って眠るのが大好きだった。


「ねえ、あなたに名前をつけてもいい?」

 ドラゴンがいいよというふうにしっぽを振ったので、ユズはずっと考えていた名前を口にした。

「あのね、ヒカリ、というの! あたしのお父さんやお母さんの故郷の言葉なの。光のことよ。あなたの白銀の身体、きらきら輝いて、きれいな光のようだから。――ねえ、どう? ヒカリという名前」

 白銀のドラゴンはユズにそっと頭をすり寄せた。

「ヒカリって呼んでいいの?」

 ドラゴンはもう一度、ユズに頭をすり寄せた。

「嬉しい! じゃあ、ヒカリって呼ぶね!」


 ユズがそう言ったとき、微かに『うれしいよ』と聞こえたような気がした。

 ヒカリが元気になってくると、洞窟の外をいっしょに散歩したりもした。ヒカリは相変わらずしゃべらなかったけれど、気持ちは通じ合っているとユズは思っていた。


「ユズ、毎日どこへ行っているの?」

「――秘密基地!」

「畑仕事、お手伝いしてよ」

「はあい」


 ユズはやるべきことをさっさと終え、洞窟に通った。楽しかった。

 洞窟の前でヒカリと並んで、空を滑空するドラゴンを眺めたりもした。ユズが横を見ると、ヒカリは透き通った蒼い目で、空を飛ぶドラゴンを見つめていた。

「あなたもああして飛んで行くのよね。傷が治ったら。――いいなあ。あたしも空を飛んで、そして遠くへ行きたい」

 ヒカリはユズにそっと身体を寄せた。ユズはヒカリを撫でる。さらさらした鱗の感触が気持ちよかった。


 ヒカリが還る日も近い。

 それまでは出来るだけいっしょにいよう。

 ユズはそう決意した。



 お別れの日――ヒカリは翼をばさばさっと羽ばたかせた。ゆっくりと。

「ヒカリ――飛べるようになったんだね。……もう行くの?」

 さみしさを堪えて、ユズは言った。

 ヒカリはユズに顔を近づけ――そして、そっとキスをした。

「ヒカリ?」

 ばさ!

 気持ちのよい翼の音がして、ヒカリは空高く昇って行き、真昼の白い月のように、白銀の身体を輝かせていた。そして、きらきらとしたドラゴンの白銀の光といっしょに、声が降って来たように、ユズには感じられた。


『ユズ、ありがとう――また、会いに来るよ』



 あれはヒカリの声だったのかな?

 ユズは村に入り、ミフネと別れて倉庫に向かいながら思う。

 あの不思議な声を、十年近く経った今でも、はっきり覚えていて、ときどき思い返していた。


「ユズ! 村長が、話があるって」

《渡って来た人》の村に着いて、過去に思いを馳せながら収穫したビワをしまっていると、同じように果物を収穫してきたアキにそう言われた。

「分かったわ」

 ユズは手早く片づけを終えると、村長の家へ向かった。

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