Op.3 凪父の過去編2〜弦楽部の夏物語 序章

楽部の夏物語 序章

松山の家に泊まった明けの日の放課後。弦楽部の4人は学校の音楽室の隣、扉に弦楽部、練習中というプレートがかかった音楽準備室に集まった。音楽室の隣ということもあって、吹奏楽部が奏でる軽快なJ-popがよく聞こえる。

「今年の夏は今までの夏みたいに、文化祭に向けての練習だけじゃなくてコンテストに向けた練習もしなければならない。今年の夏はつらくなるぞ。」

「わかっています。先輩たちと最高な思い出を作れるように頑張ります!」

「おし!じゃあ練習開始!」

「初合わせだから録音してみるか!」

「名案!それ」

吹奏楽部の合奏に弦楽器の音色が重なり合う。

カセットレコーダーのスイッチを入れると、軽やかな音を立てて動き出す。

4人は昨日のジョーの言葉を思い出しながら合わせをしている。どんな気持ちで、どんな風景を、どんな顔で描いたのかを想像すると、

自然と五線譜の音符に自然が見える。ジョーの描く音楽は音楽の真髄のようなものをついているような気がする。6分という短い演奏時間。ここでいかにジョーが表現したかったものを魅せられるか。

ここにかかっている。というのは4人の共通認識であった。

ファーストレコードが終わった。

「ふぅー。一回聞いてみるか。」

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シュルルルッ、

「「「「...いやぁ下手やなぁ!」」」」

「ジョーの演奏と全然違うぞ!」

「何がダメなんだ??ジョーの演奏もっかい聴くぞ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なるほど、この人たち弦楽なのに途中で息継ぎをしているのか。

そうすればタイミングが合うんだな」

「よっしゃ!もっかい!」

こうして彼らは一回15分のローテーションで合わせをした。6回

合わせが終わったあと、チャイムがなる。6個のテープが机の上に重ねられ、綺麗な字でナンバリングされている。

「今日はここまで。各自テープ聞いてこいよー、これコピーしてき

たから。」

松山が配ったテープには1人ずつ名前が書いてある。

「この原本のテープはめっちゃレアもんだし、このミニ金庫に入れ

て鍵かけとこうぜ!」

「原譜もいれときましょ!」

「...お、なんかそれっぽいぞー!、よし俺らの夏はこれからだ、!」

「「「「おぉっ!」」」」

こうして4人の初合わせは終わった。

弦楽部の夏物語 序章 アナザー・ストーリー〜ロマンスの予感

練習終わり、宮里が1人準備室に残り掃除をしていると、ノックが

聞こえる。

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「はーい」

「こんにちはー、私吹奏楽部の2年、クラパートの雷丸夏菜子とい

うものです。弦楽部の人まだいますかー?」

学年のマドンナが何の用だろうか。実は宮里が密かに好意を寄せている人物でもあったので少し緊張しながらも宮里は扉を開けた。

「いますよー、なんの用?」

わざとぶっきらぼうな仕草をする。

「あ、宮里くんじゃん。やほ。さっきさここからさ『湖畔のカルテット』聞こえたけどさ、どしたの?」

「あぁ、今年のコンテストで演奏するんだ。っていうか雷丸さんジョー知ってるの?」

「え、うん大ファンだよ!この曲選んだの宮里くん?

私この曲がジョーの作品の中で2番目に好き!なんでこの曲にしたの?」

「え、、結構やりやすくて、表現がつけやすいから、かな?」

「あぁー確かに。吹部でもさこういうのやりたいんだけどみんな西城秀樹とかに夢中でJ-popばっかだからさ、

こういう話できる人見つけたの初めて!」

「(え、笑顔かわいい。)それはよかった。ちなみにさ、雷丸さんはジョーの曲の中で何が1番好き?」

「えっとねーじゃあさ、せーので言おう!」

「せーの」

「「海のコラール!!」」

「「え、同じ!?」」

「海のコラール私ダントツで好き!」

「俺も。あの曲だけは別格って感じするよね。」

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「わかる!え、もっと宮里くんと話したいなぁ、連絡先!交換しよ!...これ、私の電話番号!」

「あ、あ、ありがとう。家帰ったら追加しとくね。」

「うん、今日は楽しかったよ!またはなそーね!」

「うんバイバイ!」

「ちょっとストップ!宮里くんって家西小らへん?一緒に帰ろ!」

「あ、うん。そっちらへん。じゃあ帰ろっか。」

考えてみればこれが彼にとって初めての女子と2人の帰宅だった。

「今日、俺親家に居ないんよね。」

「そうなの?じゃあうち泊まる?」

「え、でも荷物とかは...」

「それは明日親御さんに届けて貰えばいいじゃない?

服はお兄ちゃんの着れば大丈夫だよー!」

「えー、じゃあ泊まっていい?」

「全然いいよー!」

そんなこんなで初めて女子の家に泊まることになってしまった。実

は彼の家は彼女の家の反対方角、東小のあたりだった。親が家にいないのは事実であったので、まぁ大丈夫だろう。彼女の家が見えてきた。昔ながらの木造建築の大きな家。門構えも大層立派である。

「ここ。ちょっと待ってね。」

ピピッ、カードヲニンショウシマシタ。オカエリナサイマセ ナツ

コオジョウサマ。

「????」

すると門が鈍い音を立て、内側に開いた。天井のシャンデリアを反射する白い大理石の床の上には召使いらしき人がずらりと並んでい



る。彼女の姿を見ると

皆が声を合わせて、「おかえりなさいませ、夏菜子お嬢様。」宮里は驚いてしまった。奥から髭を生やした初老くらいの男性がこちら

に寄ってきた。

「おかえりなさいませ。本日は学校はいかが...おぉ、隣のお坊ちゃまはどなたですか?」

「この子は同じクラスの宮里 純くん。今日親がいないから、泊めてあげようと思って。」

「ほほぅ、なるほど。ミネ、3J25の部屋を開けなさい。」

「はっ、アテンダント・マスター。」

「おっと紹介が遅れてしまいましたね。こんにちは。私はこの雷丸家の召使長、アテンダント・マスターを務める、コードネーム・ク

ラムチャウダーです。クラムと呼んでください。夏菜子お嬢様のひいひいひいおじいさまはタイタン・ストリングス・インステゥルメ

ンツの創業者でいらっしゃいまして、初めてヴァイオリンの大量製作と上質な楽器でヴァイオリン史に名を残しました。」

「え、タイタンってあの!?」

タイタンは宮里が憧れている超一流楽器ブランド。完全ハンドメイドなので高いものだと1000万を超える。

「左様でございます。ではお部屋にご案内しますね。

お坊ちゃまのお部屋は地下3階です。」

「え、でも下につながる階段なんてどこにも...」

「ふふっ、ではミュージックスタート。」

パチッ、

クラムが指を鳴らす。

すると目の前の登りの大階段が下に消えた。すると奥からぞろぞろと楽器を持った人たちが現れ、演奏が始まった。「こうもり」だ。

その演奏に反応するかのように中央が丸く開き、大樹のような大階段があらわれた。宮里は目を見開いた。

「この階段を降り、地下3階のメインロビーまでお進みください。

ソシールがお迎えにあがります。」

「はっ、はぁ。」

「お風呂は各フロアのメインロビー横にございます。お好きな時間にお使いください。あと30分後にはここで夕食のお時間となりま

すので、しばしお部屋でお寛ぎください。」

言われるままにメインロビーに着くと、そこには彼が言っていたであろう召使いがいた。

「初めまして、私はセミ・アテンダント・マスターのコードネームトー・フノミ・ソシールです。お部屋にご案内しますね。」

「あ、ありがとうございます。あの、アテンダントさんたちのコードネームってスープの名前なんですか?」

「左様でございます。あれは召使い制度を導入なさった夏菜子お嬢様のお祖父様が先代のアテンダントマスターと会話した時。」

30年前。

「音楽はやはりリラックスして聴くのが1番だ。温かいスープを飲みながら聴くオーケストラ演奏は、これに勝つものなし。じゃ。ほっほっほ。」

「では私たちのコードネームをスープの名前にするのはどうですか。」

「ほほう、それは名案じゃの!さすがはわしが見込んだ男じゃ。気に入ったぞ。じゃあお前の役職は、アテンダント・マスター、コードネームはクラムチャウダーじゃ。クラムチャウダーはわしが一番好きなスープじゃ。光栄に思うんだな。ほっほっほ。そうだ、お前

の他にもアテンダントをまとめる役をつくろう。」さらさら、、、

「よし。」

『この家の家政婦をまとめる役割として以下の8役、エイト・トップ・スペシャルアテンダントを定める。なほ、個人の氏名の隠匿のためにコードネームを定める。これらは代々受け継ぐこと。

主席 最高責任・最高名誉・最高権限・全アテンダント統帥・最高職権執行管理官 役職名 アテンダント・マスター コードネーム クラムチャウダー

次席 副最高責任・アテンダント・マスター諸権限発動時審査管理官 雷丸家専属オーケストラコンダクター 役職名 セミ・アテンダント・マスター コードネーム トウ・フノミ・ソシール

第3席 最高指揮・有事事態対応及び最高重要度機密事項漏洩防止徹底管理官 役職名 アテンダント・キーパー コードネーム ミネ・ストローネ

第4席 副最高指揮・家財保護及び運営に関する重要書類・規定管理官 役職名 セミ・アテンダント・キーパー コードネーム ポトフ

第5席 最高指導・アテンダント養成学校最高管理官 役職名 アテンダント・プリンシパル コードネーム ブイヤベース

第6席 副最高指導・アテンダント養成学校副最高管理およびアテンダント・メンタルケア執行最高権限管理官兼アテンダント着・離職管理官 役職名 セミ・アテンダント・プリンシパル コードネーム グヤーシュ

第7席 最高風紀維持・綱紀粛正権行使管理官 役職名 アテンダント・クラスマスター・スチューデント コードネーム ポルシチ

第8席 七職補佐官・庶務 役職名 アテンダント・メゾン コードネーム コードネーム ガスパチョ

以下のジェネナル・アテンダントは公序良俗に反しない限りで各々好きなコードネームを使用すること。その際に他者と同じにならないこと

プロパガンダ的な語を使わないこと

また、常に雷丸家に使えている身として、言動に気をつけること

雷丸家の人間、エイト・トップ・スペシャル・アテンダントには最大の敬意を持って接すること

エイト・トップ・スペシャルアテンダントに推薦された場合、その推薦に逆らってはならない。

以上のことを定める。 タイタン・ストリングス・イントゥルメンツ 5代 CEO兼COO』

「ということなんです。」

「なるほど、長々と説明ありがとうございます。」

「こちらが宮里様のお部屋です、電話、ロッカーはご自由にお使いください。ベットで寝られますか、お布団で寝られますか。」

「布団でお願いします。」

「かしこまりました。あと25分ほどでご夕食の準備ができますの

で、しばらくお待ちください。」

宮里は部屋の電話を借りて、お姉さんに電話をした。

プルルルル、ガチャ。

「もしもし。宮里ですが。」

「もしもし。純だけど。」

「おおっ、どうした?」

「今日友達の家に泊まることにしたから、夕飯いらない。あと今から着替え持ってきて。』

「えぇー、今?夕飯作ってるから、待ってて。」

22


「わかった。場所は神田さんとこの斜向かいね。」

「ぇえー遠。わかったよ。くれぐれも相手の子に迷惑かけんじゃないよ。、、、あぁーもうぅ!肉じゃが焦げちゃったー。切るね、バイバイ。」

なんでこんなにも鈍臭いんだろう。こんなだから18もなって彼氏の一人もできないんだ、などと思っていると扉をノックする音がし

た。

「純くーん!夏菜子だけど。私の部屋来ない?」

「(なんで名前呼びなんだ?)いいよ、行きたい!」

「着いてきて」

「ここ。」

「え、隣?」

「うん、隣にしてもらっちゃった。ほぼほぼ一緒の部屋で寝てる様な感じだね!」

「(おいおいそんなこと言うなって)そ、そうだね。と言うかすごいトロフィーだね」

彼女の部屋には100近くのトロフィーがずらりと並んでいる。

「ありがとう、これは日本管楽コンテストでしょ、これは、、、」

楽しそうに話す彼女の姿を見て、宮里はぽろりと言葉を落とした。

「可愛い、、、。」

「ありが、え?今なんて?」

「可愛い!雷丸さん可愛い!」

「ちょ聞こえる、聞こえる!」

彼女は明らかに照れていた。頬を赤らめて棚にぶつかった。すると上から写真立てが落ちてきた。

「危ない!!」

宮里は彼女に覆い重なる様にして、倒れ込んだ。

「きゃっ!」

「大丈夫!?」

「うん大丈夫。あ、この写真の人って誰?」

その写真は初老くらいの男性と雷丸が二人で写ったものだった

「ん?内緒!ねぇ、純くん」

「何?」

「かっこいいね。私、体は大丈夫だけど、心は純くんに奪われちゃったみたい!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

そこからのことは全く覚えていない。クラムが呼ぶ声で目覚めると

彼の眼前には頬を赤らめている雷丸がいた。

「お目覚めですか。あなたお嬢様の部屋で気を失っていたのですよ。夕食のお時間です。さあ。」

「グスッ、純くん、大丈夫?ごめんね、、、」

「大丈夫だから。ほら、泣かない。」

「ありがと、、」

彼らは一体何をしていたのだろうか。それは誰にもわからない。

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