Op.2凪父の過去編1〜ジョーの描く世界
世界
「楽器も買ったことだし、レッスンの先生を見つけなきゃな。」
「この人はどうかしら。すごく優秀な先生で、東京弦楽オーケストラの、コンサートマスターだって。4年に一回行われる全日本ジュニア弦楽コンテスト東京都予選に優秀な生徒さんを毎回推薦するみたいね。今年のコンテストに推薦された子は歴6年の中1の子で、
東京都、関東を勝ち抜いて全日本まで行ったみたいね。」
「ジュニアコンテストか。確か全日本を通過すると、ウィーンで行われる世界大会に行けるんだよな!!
お父さんも中3の頃チェロで愛知県予選に出て、中部大会に行ったんだよな。」
「ウィーン!行ってみたい!」
「よし、じゃあその先生に習ってみようか!」
「先生の教え子さんで歴3年の小5の子でウィーンでブロンズ、3位をとった子もいるみたいね!その子が先生の教え子さんで最高賞だったみたいね。」
「夢があるなぁ、明日早速連絡してみよう!だから今日のうちに宿題を終わらせてしまいなさい。お母さん、ちなみにその先生の名前ってわかる?」
「うんとね...波崎 沙都子先生ね。こないだテレビに出てた波崎 ジョー先生の義理の妹みたいね。」
「沙都子先生って...!」
今から30年前、中2だった凪父は、弦楽部に所属していた。大会
出場もしてこなかったため、部費が少なく楽器もボロボロであった。
そんな状況でどんどん少なくなる部員。弦楽部はとうとう中3のヴァイオリン、ヴィオラの先輩と、中2のチェロの凪父、中1のコントラバスの後輩だった。中3は高校受験に備えるために2学期の始業式の後に行われる引退式で引退をしなければいけなかった。ということは2学期からは2人になってしまう。そんな6の蒸し暑い
日のこと。
「宮里くん、今年の9月で僕たち引退しちゃうじゃん?
最後に大会出てみたいんだよね」
「いいですね!松山先輩、どの大会に出るつもりなんですか?」
「このジュニア弦楽コンテストってやつ。4人までならアンサンブ
ル枠として出場ができるんだ。みんなで出てみないか。」
「いいですね!それ!(多分大会に行ったら部費も上がるだろうし)
」
「だろー!みんな呼ぶか!今日は田宮くんが休みだだら、山田ー!、若松くんー!」
「「はーい!!」」
「宮里くんさ、あとで田宮くんにも連絡しといて!」
「りょーかいっす!」
3人にもことの顛末を話した松山。3人とも首を縦に振った。
「じゃあ、早速申し込むか...って俺あんまクラシック知らないんだ
よな...。」
「俺結構詳しいっす!、おすすめの作曲家がいるんですけど...」
「おっ!誰だれ?宮里くん、」
「波崎 ジョーっていう人なんですけど、初心者向けの曲も書いていて、例えば『湖畔のカルテット〜弦楽アンサンブルのための』とかですかね。この曲めちゃくちゃいい曲なんすよ!」
「へぇー、いいね!じゃあ今日練習後に買いに行こうか!」
放課後、楽譜屋に赴いた部員たち。
「波崎ジョーはこの列か。結構曲書いてるんだな。カ行はここで、
こ...あった!
これか! パラパラ ...なかなか良さげな曲じゃん!」
「「先輩、見せてください!」」
「めちゃくちゃ良さげな曲ですね!」
「じゃあこれにするか、、2000円か、結構するんだな。
俺800円出すからさ、みんな400円ずつ出してよ。」
会計にて。
「お願いします!」
「はいよ。おっ、波崎ジョーか!渋いなにいちゃん!」
「ありがとうございます♪今度の夏のジュニアコンテストにこの曲
で出ようと思って。」
「ええなぁ、ええなぁ青春やなぁ。あ、ちょっと待っててな。」
店主は徐に店の中から古びたテープを持ってきた。
「これはな、ジョーがここにきた時、そこのライブステージでジョーがやってたグループの生演奏が入ってるんだ。もう最近はジョー好きも全然いなくなってしまったからな。知り合いのジョーファンにあげようと思ってたけど、これにいちゃんたちにあげるわ。ジョーのサインもついてるし、今風に、ナウくいうとプレミアもんってやつだな。がっはっはー!」
「いいんですか!ありがとうございます!」
「うますぎて泣けるから、テープが擦り減って切れそうになるくらいまで耳の穴かっぽじってよぅー聴けよ!」
「はい!」
その日は松山の家に泊まることとなった。
「このビデオテープめちゃくちゃ古いなぁ。見れるかなぁ?」
カガガガッ シュイン、シュルルルー、
「おっきた」
そこにはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの4人の
姿があった。ヴァイオリンがジョーだ。
フォーカウントのあと、美しい旋律が始まった
「ワン、ツー、スリー、フォー、」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気がつけば6分近くの曲は終わっていた。皆の目には涙が浮かんでいた。そして、次のシーンはジョーのトークだ。黒髪できっちりしたタキシードがよく似合う英国紳士風の30後半くらいの背格好だ。
「「画面の前のミュージシャンの原石たちよ、こんにちは、もしくはこんばんは。私は波崎 ジョーだ。
この曲は私の代表作『自然と生命〜コラール集』の中の一編、『湖畔のコラール』をアンサンブル向けに編曲したものだ。アンサンブルというのはとても面白い。ヴァイオリンに耳を傾けると、春の訪れを待ち侘びた小鳥の声、コントラバスに耳を傾けると、それらを狙う肉食獣の足音が聞こえるようだ。私はこれからもアンサンブル編曲をしていきたいと考えている。であるからして、この曲は私のまた新たなスタートのシンボルとなるだろう。
ところで、私の生家である波崎家、戦前まではスミス家は数々の音楽を世に送り出してきた。人々が紛争をしたり、停戦中の束の間の平和な時のティータイムだったり、いつだってスミス・ミュージックは人々のそばにいた。名前が変わってもそれは同じ。そんな我が家には『Music Has a No Correct 』、音楽に正解なし、という家訓がある。何代も何代も受継がれてきたこの家訓は今も私がレッスンをした生徒にはエピソードを添えて話
している。これからもスミス・ミュージックが世界中の人々から愛
されることを願う。愛を込めて。ジョン・ナミサキ December 21、1980」」
シュルルルッ、カチッ。
テープが終わった。自然と皆は拍手をしていた。そして涙をポロポ
ロとこぼしていた。
「やべぇ、、俺、音楽で泣いたの初めてだ...」
「自分もです...。」
「なんかやる気出てきたぞ。おし、明日から早速練習だ!」
「「「「おぉー!!」」」」
こうして、男子4人の夏物語が始まった。
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