第40話


  逆さまに持ち上げられた状態から、背中に叩きつけられる。


 僕はもう次に掴まれたらという恐怖心に支配されている。


 恐怖心が僕を硬直させるのではなく、入力が受け付けられるようになったと同時の入力で間合いを取る。


 しかし、もうモンスターに囲まれているのだ。

 

 だがなぜか、モンスターに囲まれている恐怖心がない。

 

 周囲を見渡しても、逆さまに持ち上げられていた時に囲んでいたモンスターの姿が一匹も確認できない。


 声も、気配も、確認できない。

 視覚でも認識できない。

 

 「安心してクダサイ!」

 「あのモンスター達はただのカンキャク!」

 「このショーの演者は私と貴方2人ダケです」


  どういう技を使っているのか。

幻覚魔法視覚魔法認識阻害魔法か。

 しかし、そんな事を考えさせ意識を逸らすための策略かもしれない。

この策士モンスターなら、それも十分ありえる。


 「はぁー。ダメダメ有問題」


 「貴方、ぼたんマッシング練習さぼってたでしょー」


  くっ。

 貴方の事など分かりつくしていると。

 貴方の心も読んでいると。

 そのようにプレッシャーを掛けてくるか。

 実際、心を読まれているのではないかと。

 こちらの弱点も強みも全部知りつくされているような。


 『ぼっちゃん、ボタン連打の練習もしないとオロチは倒せませんよ』

 『連打から逃げるなよ糞ボンボン』

 

 糞メイド達に毎日言われてた嫌な事が、脳裏によぎる。

 今日も言われた。

 は、ははは。

 そうか。そうやって、人の記憶の嫌な事を引っ張り出してきて

 精神的ダメージを与えて揺さぶろうとは。

 つくづく嫌なモンスターだ。

 僕は、もうだめかもしれない。

 ティアリス。

 このゲームが、ゲーム中に遊んでるゲームであり、このゲームを終えてもここからまたコイン落としを終わらせてから

本来のゲームであるダンジョン脱出を終えてティアリスの家に向かわなければいけない事を思うと。

 もう時間間に合わないんじゃないかって。

 そんな弱気な事を考えるぐらいに、僕の精神はこの頭脳派モンスターに追い詰められていた。

 

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