第5話 涼が他の女の子と仲良く…?

 時はすこし巻き戻し、同日の午前8時15分。登校してきた者が多彩な表情を浮かべ雑談しているなか、教室内によく響く声が扉の外からする。


「みんなーおはよー!!」


 と言い教室内に入る朝からテンションの高い沙希。沙希は先に登校していた瑚都に声をかけるべく彼女の席に行くと、机に突っ伏していた。


「こ、瑚都ち…? 大丈夫そ…?」

「だいじょうぶなわけないじゃん〜…」

「力が抜けてる…。昨日何があったの?」

「いや〜、昨日の通話で沙希に言われたこと考えちゃったら眠れなくて…。今眠過ぎてやばい…」

「幸せ者なのか、ただの馬鹿なのか…」

「む、馬鹿とは失敬な。わたしだって出来るものなら涼とデートしたいよ〜」

「お、いつの間にか呼び方が変わってる〜」

「えへへ〜、そうなの〜」

「こいつ完全に惚気てやがる…」

「そういえば涼は? いつもわたしより先にいるはずなんだけど…」

「うちも今日は見てないかな。寝坊でもしたんじゃない?」

「あの真面目な涼が、寝坊…? かわいすぎんだろ…!」

「瑚都ち最近隠さなくなったよね。いいと思う」

「涼以外のクラスのメンツには一応共有してあるからもう何があっても怖くない」

「味方がいるって強いんだねえ…」


 そんな他愛のない会話をしていたら、担任の朱音 響紀が入ってきて執り仕切る。


「席ついてー。HR前に席替えするから、ほら座った座ったー」


 なんというか、やる気のなさそうな先生だ。しかし生徒思いのいい先生であることをうちはこの一ヶ月、先生を見て気付いた。それにしても席替え…。学生諸君なら楽しみでない人がいないだろうレベルの恒例行事である。うちはお昼寝がし易い窓際を常に狙っているが神様が微笑んでくれたことはない。


「今回はくじ引きだー。今いないのは、丸山だけか? よし委員長、丸山の分引いたってくれ」

 

 丸山ち、寝坊したから君の席は委員長のくじ運に左右されるぞ。あいつ運はない方だって公言してるからやばいかもね…。

 うちは窓際を取ることに集中…。集中…。


「よし、今回は暁月からくじ引きにこーい」

「えぇ!? なんでうちから!?」

「気分だ」

「先生のいじわる〜」

「いいから早く引け。わたしが引いてやろうか?(ガサゴソ)」

「あぁぁぁぁ! 待って! ダメ! うちが引くからぁ!!!」


 兎に角くじを引かねば先生に勝手に決められてしまう…! 小学生の頃のような席替えだけはごめんだ…!

 先生の前に辿り着き、一枚のくじを手に取って目の前に持ってくる。これが天国かはたまた地獄か…。ええい、ままよ!


「40番…? 40番!? 窓際なのではないか!?」


 電子黒板に示された座席番号表の40番は一番左の後ろの席。つまり、窓際の最後列。世界最強の座席である…!


「勝った…! 初めて席替えに勝てたァァァ!!!」

「おぉ! おめでとう沙希! わたしは…、アリーナ…?」

「アリーナ、だと…?」

「しかも教卓の真ん前…。沙希、変わってくれる…?」

「よし、全員引いたなー。空いてる34番は、丸山か? 委員長お前引いたんじゃなかったのかー? 残ってるぞー?」

「すいません忘れてましたーw」

「忘れるなあほー。じゃあ34番は丸山で確定だな。よし、こっから来月半ばくらいまではこの席で行くからなー、仲良くしろよー」

「34番は…、沙希の隣…?」

「ゑ?」

「沙希…? 変わってくれる?」

「あ゛ー…、ィィョ…?」

「ありがとう沙希、愛してる」

「ええいうるしゃいさっさとそこの席につけ」

「ご、ごめんね…?」

「今度丸山ちもつれて三人でどっか行くので許す」

「くぅ!? 背に腹はかえられぬ…! 承諾しよう…」

「よろしい。せんせー! うち席変わるー!!」


 一瞬で天国から地獄に落とされた気分だけど、まあ瑚都ちの為の犠牲だ。

 うちはアリーナで教師たちを人間観察するかな…。案外楽しそうだわコレ。

 朝のHRは席替えと軽い担任の話で終わり一時間目が始まった。丸山ちはまだ姿を表さなかった。こりゃ完全に寝坊だな…。




 昼休み。まだ学校に姿を現わさない丸山ちに嫌気がさしたのか、瑚都ちは切れる寸前である。ほんとーに怖い。


「なんで今日涼が来ないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 遂に瑚都ちがキレて、周辺の男子が沈めていたその瞬間、教室後方のドアが開いた。メガネのレンズが日光を反射し、眩しい。いやほんとに眩しい。


「えっと…、どういう状況ですか…?」

「ん? こーゆー状況だよ、丸山ち。おはよ」

「時間帯的には、こんにちはですけどね…」

「遅刻している身分でよく言えるなオイ」

「すいません…」

「あ、涼だ! 今日の放課後も勉強会しよ?」

「あ、今日はちょっと用事があるんで遅くなりますよ?」

「へー。なんの用事?」

「新設された同好会に見g…

「涼くーん? お昼一緒に食べよー…?


 丸山ち目当ての娘が一人来た…。そして瑚都ちが今までに見たことのないような表情をしている…。ナイス、名も知らぬ少女よ…。


「あ、咲良さんどうしたのー?」

「いや、お昼ご飯一緒に食べませんかーって。私、穴場知ってるんですよ!」

「ん、じゃあそうする。今日の放課後はいろいろ用事があるんで通話での勉強会でもいいですか?」

「わたしもその同好会見学する!」

「いや、でも瑚都さん勉強やばいんじゃ…?」

「夜通話でやるんでしょ? なら大丈夫よ!(横のメガネの女に絶対に涼取られたくないし…!)」

「わかった。じゃあまたね」

「へ? どこ行くの?」

「咲良さんとお昼食べに行ってくるよ」

「あっ、ちょ、待って…!」

「じゃあ、また後でね」


 どうやら知らぬ間にライバル的存在ができているぞ瑚都ち。これは観衆の我々でも楽しめる感じになって来た…! 当の本人はめっちゃダメージ受けてるけど。


「涼に…、わたし以外の…、女友達…? あばばばばばば…」

「はいはいしっかりして瑚都ちー。こうなることも少ない確率だけど想定済みでしょ? 本気で取りに行くなら、ライバルの一人や二人倒してなんぼでしょ?」

「そうだけどさぁ…」

「あーもう! 作戦会議するよ瑚都ち!」


 どうやら少し雲行きが怪しくなってきたようだ。瑚都ちならいけると思うんだけどなー。当の本人が恋愛に対するスキルがゼロだから、ダメ人間っぷりが出てるな。

 全く、うちがサポートしないと、瑚都ちはダメダメなんだから…。





作者のひとこと

 真夜中にこれ書いてます。本来なら、一時間速く投稿している予定だったのですか、深夜のライブ配信が楽しすぎて全然執筆していませんでした。わたしが悪い。

 今回はセリフ多め日常会でした。時間がないので無理やりセリフで盛ってるような感じですね。許して。

 次の話では、アグネス◯キオン、ではなく、川崎せんぱいについて詳しく触れるようなお話にして行きたいなと思います。

 追記/夏休み入ったんで、甲子園と並行して書きます。応援してくれる方には、ふるさと納税の返礼品をあげますん。冗談です。

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