第2話 じゃあ、はじめよっか。

 瑚都ちの口から出た衝撃的な言葉、「わたしと一緒にバカのふりして」を聞いたうちは頭の中が「?」で埋め尽くされていた。


「うちが、瑚都ちと一緒に、バカのふり? どゆこと?」

「そのまんまだよ。わたしと、沙希の二人で、丸山くんを欺くの」

「…瑚都ちってそんな人間だったっけ?」

「丸山くんと付き合うためには、なんでもするよ!」


 バカのふりがどーこー言ってるけど、うちは瑚都ちのことをバカだと思っている。

 だってこの発言。好きな人を落とすためにバカを偽る。もっといい感じに落とせる方法あるだろ…。と言うことは流石に本人には言えず、れっつ作戦会議。


「で、具体的には何するの?」

「簡単。バカになって勉強教えてもらう!」

「にゃ〜、納得」

「ほら、わたし頭いい方じゃん? だから、どちらかというと教える側な訳よ。でも! わたしは教えて欲しいの! あのイケボで教えられたいの!!」

「うちは丸山ちの声を聞いたことがないからなんとも言えんけど、そんなイケボ?」

「わたしの性癖にストレートだね」

「うちも声聞いてみたくなったわ」

「じゃあ、協力してね!!」

「話の進みが早いなあ…。りょーかい、うちなりに頑張るよ!」




 あの会話からもうそろ一ヶ月…、第一段階はクリアかな。いい感じに誘うことはできた。あとはバカでないことがバレないように、彼女がかんばるまで。

 さて、うちも頑張るか!



 

〜丸山視点〜


 宮本さん、意外に足が速いっ! そこまで長い時間話していたわけではないけど、意外と時間を食っていたらしい。


「丸山くん! 早く来て!」


 目の前には夕陽をバックに笑う天使の姿が。僕に対して笑顔を向けてくれる宮本さん、今まで見た誰よりも可愛かった。


「はあ…、はあ…、宮本さん足早いね…」

「早く勉強教えてもらいたいからね! あそこのワックまで競争だー!!」

「まだ走るの!? まっt…」


 しまった足が絡まった…! この姿勢からの復帰は難しいが…、このまま転んでしまうと前にいる宮本さんにまで被害が及ぶ…。

 そんなことを考えていると、宮本さんが振り返り、


「丸山くんはやー」

「ごめん宮本さん避けて!!」

「えっ…えええええ!?」


 ダメだ間に合わない…! 避けようと体を動かしていたら、それが悪手だったのか、バランスが合わずに宮本さんへ一直線。


 ドサっ…!


 音を立てて地面へと、宮本さんを押し倒すような形で倒れ込む。

 眼前には、困惑しているのか、あわあわと声を立てている宮本さん。その上に乗っている自分。あっいい匂いする…、じゃなくて!


「ご、ごごごごごごめんなさい!!!!」


 僕は爆速で立ち上がり、宮本さんから距離を取る。至近距離で女性の顔を見るなんて初めての体験すぎて死ぬ。

 僕がおろおろしていると、未だ宮本さんが立ち上がらなかったので、手を差し伸べた。


「だ、大丈夫? 宮本さん。その…、ごめんね?」

「………」

「み、宮本さん? 大丈夫? え、ほんとにごめんね?」


 応答がない…。どうしようこーゆー時ってどうすればいいんだ…? とりあえず起こすか…。


「宮本さん、はい。どこか打ってない? 大丈夫?」

「あ、うん。大丈だよ。ごめんね、こっちこそ急かしちゃって…」

「いや、僕が遅かったからで、その…宮本さんは悪くないよ!」


 という感じで互いに謝罪を押し付け合っていた。どうやら彼女もこの状況は初めてらしく、動揺していた。かわいい。


「ま、とりあえず早くワック行こ! 詳しい話もしたいし」

「そうだね。って宮本さんだから走らないでってばー!!」





 ワクフォナルド、通称ワック。日本で人気チェーン店TOP3に入るであろうみんなの味方、格安ジャンクフードの都である。


「お次のお客様ご注文どうぞー」

「わたしはー、メガビッグワックバーガーのセット! ドリンクはコーラで!」


 入店して3秒、ジャンクの塊を注文。これは僕もびっくりした。


「メガビッグのセットですねー。そちらの方はどうします?」

「じゃ、じゃあ、このバニラソフトクリームを3つと、新発売のチョコフラッペで」

「バニラソフトクリームが3つ、チョコフラッペが1つですね。注文の品が調理完了しましたらお席の方に運び致しますので、2階席の左奥でお待ちください〜」


 宮本さんのセットが調理時間かかりそうだから、僕の脳に甘いものが蓄積されるのももう少し先になるかな…、とか考えていたら、


「丸山くん、それだけでお腹空かないの?」

「僕はあまり空かないかな…。これだけで一晩持つレベル」

「ふ〜ん。あとで一口ちょうだい!」

「いいけど…、宮本さんお腹いっぱいにならないの?」

「わたしは大食いだから! お腹い〜っぱい食べないと満足できないもん!」


 どうやら彼女はいっぱい食べてるらしい。だからあの元気な性格なのだろうか? あと体の一部の主張が激しいのも、いっぱい食べているからだろう。健康なのはいいことだ。

 さて、じゃあ始めて行くか。勉強会。






「今日はありがとうね! おかげで基礎が全部わかった気がするよ!」

「それはよかった…」


 まさか教えるのにこんな疲れるとは思っていなかった。高校の範囲がわからないのかと思ったら中学の範囲までわからないと言われ、そのまま基礎の基礎から総ざらいすること三時間半。要領がいいのか、理解した後は問題をスラスラ解き、全部正解するという凄技まで見せてもらった。結論から言うと、楽しかったがめちゃくちゃ疲れた。しかし、またやってみたいなと思う自分もいることに驚きを隠せない。


「宮本さん、地頭はいいね。教えたこと全部飲み込んでてすごいと思う」

「えっ(ギクッ)、で、でででででしょー!!」

「うん。この調子なら、寝る前に何分か復習しておけば赤点は回避、なんなら平均点以上も見込めるんじゃない?」

「本当!? ありがとう丸山くん! あと丸山くん、敬語いらないよ!」

「いや…、でもまだあんま話したことないし…」

「そんなの関係ないよ! 一緒に勉強してご飯食べた仲じゃん! とりあえず敬語なしで一回話してみよ? ね?」

「じゃ、じゃあ…、これからも勉強頑張ろう、宮本さん」

「名前で呼んで! こ、と、でしょ!」

「う、うん! よろしく、こ…、瑚都さん…」

「呼び捨てで呼んで! はいもう一回!」

「こ、これからもよろしく! 瑚都…」

「声が小さい! もう一回!」

「うぅ…、こ、これからもよろしく! 瑚都!」

「うん! よろしくね、涼!」


 夜の繁華街灯りの、雑踏の中に輝く彼女の振り向きざまの笑顔、それはもう1000年に一人の女優の微笑みよりも可愛く思えた。そして同時にわかった。



            これが【恋】っていうのだな、と。






 今日はとても収穫のある一日だったな、と思う。

 涼と話せて、名前を呼び合って、一緒に勉強して、ご飯を食べた。あ、RINE交換し忘れちゃった…。明日交換すればいいか。幸い今日は火曜日で明日は平日。明日も涼に会える。そう思うと笑みが止まらない。


「えへへへ、今日は涼といっぱい話せちゃったよお」


 にへへへと笑いながら、沙希に話しかける。入学してから定例となった、この時間帯の通話。今回は報告会兼作戦会議である。


「おー、よかったなあ。で、どう? 念願の丸山ちと一緒に勉強したりご飯食べた感想は」

「もうね、最高。他にお客さん居たはずなのに、わたしたちだけのステージみたいだった」

「ふーん、そんな感じなんだー」

「興味なさそうに聞くのやめてよー! わたしの相棒でしょ?」

「相棒だからこその返事。まだ一歩しか進んでないんだから、終わりはまだ遠いでしょ? 次の作戦考えよ」

「ちょっとは幸せに浸らせてよー」

「じゃあそんな幸せに浸りたい瑚都ちには、妄想でもっと幸せに溺れてもらうよ」

「え? どゆこと?」


「次の目標、二人でお出かけ。つまり、デートだよ!」

「…へ? デート!?」




作者のひとこと

長々と書きすぎた気もしますが、一日目終了です。

二日目は、もう少しイチャラブさせたり、新キャラ登場させたりしたいな。

八月の終わりまでは、一日一本投稿できるように頑張ります!!

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