茜色の空、交わりの予感
柑橘
第1話 テスト勉強、に行くまでの話
ゴールデンウィーク明けの登校初日。中間考査まで三週間を切り、高校生となってはじめてのテストが目前に迫る感覚を覚える。
僕の名前は、丸山
元々、友達など生まれてこのかたできたことがない為、この環境には慣れている。と言うか、逆に僕には近づいて来ない。まあ僕には他の人とは違う「ナニカ」があるんだろう…、といった厨二的考えで自我を保っている。
本当はみんなと話したい、仲良くなりたい。そんな考えがあるが、自分の意思は小さく、おまけに不細工な顔面の存在で誰にも話しかけず、誰にも話しかけられずにいる。
「高校生はじめてのテストか…。まあ勉強だけは得意だから大丈夫かな…」
そんな非リア陰キャ(省略)の僕がいじめられていない理由の一つが、頭の良さである。僕は小学生の頃から成績は常にトップを維持している。元々勉強はできる方で、友達がいなかったからさらに勉強していた結果、こうなった。
ついでに運動も少し得意だ。父親が運動好きな為、それに付き合わされて、体力が学年トップレベルになった。しかし僕は隠し通している。平穏のために。
「今日の夜は…、普通にゲームしようかな」
そんなことを思い読んでいた本を閉じる。時刻は16:30分、HR終了のチャイムが鳴り、様々な音を上げ皆教室を立ち去る。
「今日カラオケ行く? 行くしかないよね!!」
「拒否権ないのかよ!?」
「俺部活だしー!!」
「私たちも今日はパス。姉ちゃんの誕プレ買わないと」
「えぇ〜!? 誰も行かないの!?」
「もうそろテストだしお前も勉強しろよ」
「それを言う高知もだよ!」
前の方、先程まで先生のいた教卓を囲んでいる男女八人がいつものように騒いでいる。クラスカースト上位、いわゆる一軍。その中でも一人、静寂を貫く女性がいる。
「瑚都ちはどう? カラオケ、行くよね!?」
「私は勉強しないとマズイの! 高校からは勉強難しくてついていくのも精一杯なんだから!」
「私より大変そうな娘がいるなぁ…」
「そう思うなら助けてよ!!」
勉強がクラスで一番やばそうな女子、宮本
その隣には個性的な名前の呼び方をする二人目のバカ、暁月 沙希が苦笑い。かわいい。だが、一軍の会話など僕にとって関係ない会話である。住む世界が違う生き物と接すると二ヶ月くらいの体力を使う。
「瑚都ち受験もギリギリだったもんね〜。教えて貰えば?」
「私を甘くみないで沙希。まだあと三週間あるのよ! 今からすれば勝てる!」
「あーはいはい、基礎わかってない人のセリフじゃないから普通に教わればいいじゃん。おーい丸山ち、この前の全国模試すげー点数取ってたじゃん?」
丸山ち…、僕のことなの…? でもすげー点数って言ってる、多分僕のことだ。面倒ごとに巻き込まれてしまった、早く帰ればよかった…。
「丸山くん勉強できたの!? 教えて教えて!!」
「なんで僕が…。嫌ですよ、めんどくさい」
「そこを何とかだよ、丸山ち。ついでにうちも!」
「沙希はダメ! 他の人に教えてもらって!!」
「ダメかどうかは丸山ちが決めるもんねー?(チラッ)」
どうやら決定権は僕に委ねられたらしい。どうしよう、物凄くやりたくない。
「…僕やりたくないんだけど」
「だーめ! 丸山ちは拒否権なーし」
ちくしょう本当に面倒だ。なぜこのクラスのトップバカに勉強を教えなければいけないのだ。勉強が出来るイコール教えられると言う方程式を勝手に組みやがって。
視線を感じて顔を上げると宮本さんがこっちを見る見る見る。これは、仕方がないか…。
「…じゃあ、宮本さん」
僕が恐る恐る答えると、当の宮本さんは笑顔になり僕の方へやってくる。
「本当に教えてくれるの!? ありがとう丸山くん!!」
「(ナイス判断だぜ、丸山ち)」
「お、教えるの下手だけど、よろしく…」
「うん! よろしくね、丸山くん!!」
女子と会話し、その上感謝までされるのは何年ぶりだろうか? いや、初めてかもしれない。そういえば、宮本さんも暁月さんも僕の苗字を知っていたのには驚きだ。彼女らが僕のことをどう認知しているのか気になるが、どうせろくなことにならないだろうと思い、詮索するのをやめる。
「じゃ、じゃあ、僕は帰るね。また明日」
「また明日(イケボ)。じゃないでしょ丸山ち。自分の役目忘れた?」
「そうだよ丸山くん。わたし、教えてくれないとテスト勝てないよ」
「さっきと言ってること違うじゃん…」
「こっ、細かいことはいいからさ、早く勉強会しよ! どこでやる? わたしの部屋?」
「近場のワックでいいでしょ瑚都ち」
「じゃ、じゃあワックで早く勉強しよ!」
と言いながら足早にこの場を去る宮本さん。どうやら僕が悩んでるうちに他のメンツやクラスメイトは教室から去っていて、教室に残るのは僕と暁月さんのみである。
暁月さんは僕に近づくと、僕の肩をトントンと叩き、
「丸山ち、瑚都ちはたまーにテンションバグるから、ちゃんと制御してあげてね⭐︎」
「なぜ僕がテンションまで管理しなければならないのですか…?」
「いーからいーから早く瑚都ちの方に行きなさい」
「え、ああ、わかった。じゃ、じゃあ暁月さん、また明日」
「はいはーい、また明日ねー」
廊下を走って瑚都ちを追いかける丸山ちの姿、ちょっとかっこいいかも。とか思いながら教室の窓から外を眺める。高台に建っているうちの校舎は、近くの幹線道路を走る小さな車や遠くの集合住宅街を見渡せる。キレイ、と呟きベランダの柵に体を預ける。
約束を交わしたあの日が懐かしい。
〜回想〜
入学して一週間が経ち、クラス内のグループが段々と完成した頃に、瑚都ちはうちにこんなことを言った。
「わたし、丸山くんのことが好き」
「…丸山? 誰?」
「ほら! 窓際でいつも本読んでる彼!」
「あー、メガネか」
「そう! あのメガネに少し長めの前髪、小さいけど温かみのある声…、もう全部かっこよくて好き」
どうやら彼女は入学する前から彼のことが好きらしい。意外。
「で、それがどうしたの? 謎の報告してはい終わり、って訳じゃないでしょ?」
「うん。わたしは一学期が終わるまでに丸山くんを彼氏にする」
「さっすが瑚都ち。で、うちはそれを手伝えばいいわけ?」
「そう。わたしと彼が無事付き合ったら沙希にもご褒美あげる」
「瑚都ち太っ腹〜。いいよ、協力する」
「ありがとう、沙希。じゃあまず最初の作戦なんだけどさ」
「いいよ、うまく行かないこともあるかもだけど頑張る!」
そう言ってニヤッと微笑む彼女の笑顔は、この世で見た何よりも可愛かったのを覚えているが、この後のセリフで全てが崩れた。
「わたしと一緒にバカのふりして」
「なんで?」
作者のひとこと
小説書くのって難しいですね。がんばります。ゆるゆる更新していきます。
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