第3話 部室内にて自由恋愛が発生し行われるマッサージ

(ガラッと扉が開く音)


(駆け寄ってくるトットットッという音)


 先輩、先輩!

 可愛くてけなげな貴方の後輩、月長かたりです!

 今日も部活頑張りましょうね!


 朗読で今回で3回目!

 そろそろ先輩も、私の朗読なしではさみしい気持ちになることでしょう!

 毎朝、お味噌汁のかわりに後輩を求める体になってはいませんか?


(左側でパイプ椅子に座る音)


(紙をめくる音)


「おかあちゃん、おててがチンチン──あいたぁ!」


(ハリセンの音)


 今回ツッコミ早すぎません!?

 美少女後輩から繰り出されるえげつない言葉とのギャップが大きすぎて、思わず手が出てしまうのもわかりますが、もう少しやさしいタッチでお願いしますね?

 将来のことも考えて、ね?


 この程度で教育的指導だと、すれ違いの末にいつもきのこをくれたのはおまいだったのかする鬱勃起ネタも使えませんね……


 それならキツネは止めて、タヌキにしましょうか


(紙をめくる音)


 むかしむかしのお話です。

 おじいさんとおばあさんは田畑を耕してくらしていました。

 そこにイタズラもののタヌキがやってきました。


「へっへっへ、田んぼを掘り起こしてグチャグチャにしてやったぜ! あった草もみんな土の中だ」


 田おこし(土を耕して肥料を混ぜ込む作業)を代わりにやってもらえたとおじいさんは大助かり。タヌキを強引に家に呼んで、宴会をしようとします。


 恐縮しきりで帰りたいと泣き落としをするタヌキ。おばあさんは仕方ないねぇあの人はとお土産を探します。その後ろから、杵をもったタヌキが忍び寄ると──


(グチャと何かをつぶす音)


「ひひひ、ばあさんが用意していた米をグチャグチャにしてやったぜ。俺なんかを信用するからバカをみるんだ」


 臼には、杵で潰され練られ跡形もなくなった米の無残な残骸……俗に言うお餅がありました。


 ここまでくればおわかりでしよう。

 タヌキはツンデレだったのです。


 おじいさんとおばあさんが、何度お礼をしようとしても、ツンデレのタヌキは受け取ってくれません。なんとか上手い方法はないものか、と頭を抱えているとそこにウサギが訪れます。


「まかせてください。私がかわりにタヌキさんにお礼をしましょう!」 


 ウサギさんは手慣れた様子で、タヌキに声をかけます。


「タヌキさん、タヌキさん。これから隣山のオコジョをからかいに行くんですが、一緒にいきませんか?」


 この誘いにはタヌキもニッコリ。

 素直にウサギについていきます。


 山道を二人は歩いていきました。


(席を立つ音)


(カーテンを閉める音)


(後ろに歩みよる音)


 するとタヌキの後ろで音がします。


(パチ、パチ、とボタンと金具の外れる音) 


「さっきからパチパチするのは何の音だい?」


「パチパチ山のパチパチ鳥の鳴き声ですよ」


(しゅるしゅると服を脱ぐ音)


「さっきからシュルシュルするのは何の音だい?」


「シュルシュル原のシュルシュル蛇の鳴き声ですよ」


(バサバサと何かを着込む音)


「さっきからバサバサするのは何の音だい?」


「バサバサ丘のバサバサ犬の鳴き声ですよ」


(足音と共に耳元でささやき声)


「お待たせしました。これで名実ともにウサギさんです」

 

 目の前には、バニーガール姿のウサギさんの悩殺ポーズがありました。


「タヌキさん、素敵ですよ。これは私からのサービスです」


「なんでもおっしゃって、く・だ・さ・い・ね♥」


 驚いたタヌキは転んでしまいました。


 ウサギはタヌキに駆け寄ります。


(歩く音)


「たいへん、打ち身が残ってはいけません。私がマッサージしましょう」


 心配するウサギはタヌキにマッサージを施します。


 断ろうとするタヌキですが、驚かせた私の責任ですとウサギに言われたら断ることもできません。


(隣のパイプ椅子に座る音)


(ベチャベチャと液体の音)


「この山の泥は薬草も混じってて肌にいいんですよ」


(小声)さすがに泥はどうかと思うのでハンドクリームですが


(手をもみもみする音)


「わぁ、おっきいですね。私の小さな手なんてすっぽり包まれてしまいそうです」


(しゅりしゅり手をこする音)


「ふふっ、なんだか不思議です。手、あったかいですね。手があったかいと心がつめたいとかいいますが、あてになりませんね」


(より近くで腕をもみもみする音)


「腕は意外と筋肉質! いいですねー、私の腕は細いので憧れます。コリも何もかも飛んでいって、気持ちよくなっちゃっていいんですよ?」


 そうしてウサギは一通りのマッサージを施しました。

 一仕事を終えたウサギの顔に、笑みが浮かびます。


「計画通り」


(離れながら、芝居がかった口調)


「ふっふっふ、騙されましたねタヌキさん。私は実はおじいさんとおばあさんの依頼でここに来たのです」


「な、なにっ!?」


 驚くタヌキですが、手に塗られた泥が固まり動けなくなっていることに気がつきました。


(小声)クリームをなすりつけてしまわないか心配で、何もさわれないでしょう! そんな優しい先輩も可愛いですね!


「抵抗は無駄ですよ、観念してください」


(一歩、一歩、歩み寄る音)


(間近で止まる)


(ギュッと抱きしめる音)


「二人のお礼、プレゼントは、私です──」


 そうしてウサギはタヌキと幸せに暮らしました。

 二人の仲むつまじい姿に感心した神さまは、月にウサギの姿を描いたとのことです。これが月にウサギがいると言われるようになった理由です。


 めでたし、めでたし


(ぎゅーと再度抱きしめる音)


(唐突に息を飲む音)


(深呼吸しながら一歩離れる)


 あー、そのー


 私的には、めでたし、めでたしの勢いのまま、抱き着いちゃってますが

 先輩的にはめでたくなし、めでたくなし、だったり、しないでしょうか……?


 私が強引にはじめた朗読ですが

 最近は暴走を自覚しておりまして……


 もし嫌な時は……

 正直にいって頂けると助かります。


「ウサギは寂しくても弱らないそうですが、私も善処! します! ので!」

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