第4話 とある部室のチルアウト
(ガラッと扉が開く音)
(駆け寄ってくるトットットッという音)
先輩、先輩!
可愛くてけなげな貴方の後輩、月長かたりです!
今日も部活頑張りましょうね!
(離れて行くトットットという音)
(左側のいつもより離れた場所でパイプ椅子に座る音)
(本のページをめくる音)
なんですか、先輩?
今日は朗読は休みですよ。
ネタが無いわけではないんですが
(本のページをめくる音)
前回、ちょっと暴走していたのを自覚しまして……
ノリだけの女と思われるのも心外です。
今回はぜひ先輩に!
穏やかな時間を一緒に過ごせる後輩であることも思い出して頂こうかと!
私は静と動を併せ持つ後輩!
ザ・癒やし・後輩なのですから!
(本のページをめくる音)
(しばらく無言)
(本のページをめくる音)
懐かしいですね。
この雰囲気です。
私が文芸部に入部した頃はこんなでした。
(本のページをめくる音)
静かです。
本のページをめくる音だけが響く空間
時間がゆっくりと流れていくような雰囲気
互いの存在を示すのはページをめくる音だけ
(本のページをめくる音)
私はこんな時間も好きです
もともと読書も好きですから
だから読書したい時は先輩も言ってくださいね
私に無理してつきあわなくてもいいんですよ
(本のページをめくる音)
先輩が良いならそれでもいいんですが
(しばらく無言)
(本のページをめくる音)
最初はこんな感じでした
ずっと本を読んでました。
気がついたら鐘がなって終わり
そんな時間も好きです
(本のページをめくる音)
ある日、顔をあげてみたんです。
先輩がいました。
今と同じ場所、そこにいました。
(本のページをめくる音)
気まぐれだったんでしょうね
世間話を振った気がします
天気の話とかそういう雑なネタです
(本のページをめくる音)
返事なんかなくてもいいと思ってました。
静かな時間も好きでしたから
でも先輩はちゃんと反応してくれて
うわっ、この人しゃべれるんだ!?
とか思ってたんですけど怒りますか?
(本のページをめくる音)
ありがとうございます。
それから少しずつ先輩に話しかけるようになりました。
先輩もよくつきあってくれますよね?
今ではやかましい後輩でしょうに
朗読でも変なテンションあがりまくりですよ
昔の雰囲気に戻るのは、こうして本を読みながら話す時ぐらいです。
(本のページをめくりかけてやめる音)
そんな感じの後輩です私は
なんとなくで話していたので、脈絡のない話になってますね
先輩はいつもそこにいるなぁ、と思っただけです。
それが私には落ち着くというだけの話です。
ただそれだけなんですが
(パイプ椅子から人が立ち上がる音)
先輩にはじめて話しかけた日
何を話しかけたのか覚えていません。
ただ話し終えた時、鐘が鳴ったんです。
いつも通りの読書終了の合図です。こんな風に
(遠くで学校の鐘が鳴る音)
(トッと小さく一歩)
鐘の音の響きが、あの日はとても綺麗に聞こえたんです。
それだけの話なんですが
一度気にしたら不思議なもので
また綺麗な鐘の音を聞きたいと思う私がいました。
(トッと小さく一歩)
もっと綺麗に聞こえるのはどこだろう。
もっと素敵に聞こえるのはどこだろう。
それからは座る位置を調整する日々です。
(トッと小さく一歩)
毎日少しずつ、毎日少しずつ
好きな音が聞きたくて、場所を変えました。
気持ちよく聞ける場所には決まりがあるようで
(トッと小さく一歩)
毎日少しずつ、毎日少しずつ
その場所へと近づきました。
(すぐ近く、左隣でパイプ椅子に座る音)
(耳元でささやき声)
「気付けば、こんなところまで来ちゃいました」
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