第3話 絵画や写真に使われる構図を参考にする

読み飛ばしてもらって構わない裏話をしておきますと、文章表現を取り扱っているのに視覚的、平面芸術な説明から入っていったのは単に写真を趣味とする私自身が書き出しやすく、また重要だと感じたからです。というわけでこの先もしばらく視覚の話になっていきます。


今回取り扱うのはタイトルに有る通り「構図」です。前回、ある情景を描写するときにどのように視線をたどって行くのが良いか、という意見を述べたわけですが、今回はその一歩手前、つまり「どのような情景を設定するか」という部分になります。

前回述べた表現はいわば、眼の前にある景色を説明するという点に焦点を当てた内容でした。ノンフィクションでない限り、小説に登場する場所や景色は実在しないものが多いです。なので情景描写をしよう、となったときにまず場面を設定して、それから説明を作らなければなりません。どうせ場面を設定するなら、最も効果的な場面を作ってやろう、というなんだか小説だけの枠に収まってない気がする回になります。


今回説明することについてもし詳しく知りたい、という方がいれば以下のキーワードで検索してみてください。

「写真(絵画) 構図 種類」

わかりやすく解説してくれているサイトがいくつもでてくることは私も確認済みです。


写真、絵画などの平面作品にもやはり、効果的な構図というものは存在します。早い話、モナリザは絵の端に入るより中央で頬笑むほうがきれいに見えるが、ゴッホの方の「種をまく人」では人物は右寄りに描かれています。しかしどちらも美しい(少なくとも私はそう感じます)絵画ですよね。作者当人が意識していたかはわかりませんが、これらの作品には効果的に視覚に訴えかけるよう、状況に合わせた構図とりがされているのです。


構図を理解するうえで理解に役立つと私が勝手に考えている視点が一つあります。それは「視野、画角」の概念です。

実は人の視界は意外と広いです。

あなたがこの文章を読む端末。今あなたは文字を読むため端末に注目していると思うのですが、顔と目の向きはそのままで一度端末の奥の床や壁に注目してみてください。

あなたがさっきから見ている視界は全く同じですが、端末への注目をやめると視界が広がった感じがしたと思います。

この、視界全体の中であるものに注目したとき、どれくらいの範囲が見えるか、というものが視野です。視界と視野の違いについては曖昧な定義も多いのですが、私の文章の中ではこのようなものとします。

普段の生活でも人間はなにかに注目することがほとんどなので、見える範囲の説明をするときは視野に基づいて著したほうが自然でリアルになると考えています。

そしてもちろん絵画や写真の多くは「魅せたいもの」つまり主題があるので「視野」に基づいて構図が取られています。どれくらいの視野で描くか、撮るか。これが「画角」です。「視野と画角」の説明は以上になります。


では、ここからは小説の場面にも使えそうないくつかの構図を紹介します。


・日の丸構図

これはおそらく最も有名、もしくは一般的な構図だと思います。簡単な話で、要は一番魅せたいものをど真ん中に配置する、というものです。おそらくこの構図のお手本的例はモナリザです。あの微笑む顔を思い出せる人は多くても、絵の背景を想起できる人はよほど見てきた人でないといないと思います。

日の丸構図が効果的な原理についての考察ですが、これは人間の集中したときの視野が関係していると考えています。

人間が戦闘状態などにあり、極度に集中しているときに起こる現象の一つとして、「トンネル視野」というものがあると言われています。銃撃戦を経験したアメリカの警察官の一部では戦闘中に「まるでトイレットペーパーの芯やストローを覗いているような視野になった」という経験があったといいます。

人間が視覚的になにかに集中しているときは、注目しているものを中心に視野の端にあるものはどんどん認識されなくなっていくわけです。このことからも、とにかく注目したい!という事柄があるときは真ん中にドン!といった描写をすると文章と読者の印象が一致して読みやすいのではないでしょうか。


・放射線構図

これもなにか一点に集中したいときに使える構図です。早い話、漫画の集中線と同じ形、効果を持ちます。すべての線の終着点に集中したいものを配置します。「最後の晩餐」を見ると放射線構図がよくわかると思います。最も注目すべき人物、イエス・キリストに自然と目が行きます。これは日の丸構図も使われていることもありますが、背景の部屋に注目していただくと遠近法で小さくなっていく部屋の奥、部屋を構成する線の交わる点はイエス・キリストと重なります。

これほど人物が多く賑やかな絵画で放射線構図が活かされているのだから、その効果は絶大だとわかります。

小説で使えるような例はすぐには思い浮かびませんが特に「最後の晩餐」に近いような場面を描写するときなどは収まりが良いのかもと思います。


・三分割構図

これはかなり応用が効きます。画角の中を上下左右三分割して、それぞれの分割線の交点に重要なものを配置する、というものです。交点だけでも4つあるので、かなりのレパートリーがあるものです。3分割構図を多用している絵画の一つがゴッホの「種をまく人」(ミレーじゃない方)です。

まず種をまいている人に注目すると顔の位置は右上の交点に、そして体は右三分の一の線とおおよそ重なります。また奥にある金色の麦畑と手前の耕地の境目は上三分の一の線と一致することがわかります。

この絵からもわかるように、三分割構図を使いこなせると自然な余白が生まれます。写真なんかで使うとちょっと通な雰囲気の写真が撮れます。

例えば前回の雑多な部屋の描写。あのような要素の多い場面では小説の文章に直接使えなくとも、自分用に景色の絵を描いてみて整理する、といったときに三分割構図に基づいて要素を配置してみるといいかもしれません。


この他にも世界には様々な構図が出回っていますが、特に文章にも応用しやすいのはこの3つかと思います。他の構図が気になった方はぜひ調べてみてください。

もしこれから場面を設定する、というときには構図、という要素を頭の片隅に置いて取り掛かってみてください。

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