第27話 七歳の冬

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 第27話 七歳の冬

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 季節は冬に入った。もうすぐ七歳の年が終わる。

 昨年は近年にない寒い冬だったと聞いていたが、今年はそこまで寒くないようだ。

 そんな俺は、馬王造りとダンジョン探索を両立させながら、可愛い弟のジークヴァルトの面倒を見ている。


 俺とベンの探索は順調で、最近はダンジョンの四層を探索している。それに今はシャーミーも加わって三人で探索しているんだ。

 シャーミーは光魔法に長けている。おかげで暗いダンジョンの中が明るくて助かる。

 アシュード・ダンジョンで活動している探索者は増えており、二十組以上になっている。その中でもコズミさん組は一番深い十層を探索している。さすがはレベル二百オーバーの五人組探索者たちだ。

 ロックスフォール騎士爵家の領軍―――軍というほど規模は大きくなく、三十人くらいしか兵士はいない―――も新兵を中心に、ダンジョンに入っている。これはレベル上げと、安定した肉の供給が目的だ。

 おかげで領内に新鮮な肉が出回っており、村人は喜んでいる。

 それと、商人が増えたことで、アシュード領の物価が下がった。外から購入していた小麦と塩は今まで一人の行商人の専売のようになっていたが、それが複数の商人が常駐することでガクンと値下がりしたのだ。

 さすがに日持ちのしない野菜は難しいけど、ニンジン、カボチャ、玉ネギ、それから干し大根が入ってきた。

 さらに果物のリンゴも入ってくるようになった。ちなみに、リンゴはアポーと言うらしい。

 出荷するほうは、昔からの特産のチーズとモンスターの素材の卸価格が上がっている。もっともこれらは適正な価格に近づいたといったほうがいいだろう。

 これまで行商人がいかにぼったくっていたかが分かるが、一人しかきてくれないような場所だったのだからしょうがないか。

 それからチーズの需要も多くなっている。商人が多いと、それだけ販路も多くなるのが原因のようだ。

 アシュード産のチーズは品質がいいと評判なんだとか。そこで使ってない旧坑道をチーズ造りに活用し、増産が行われている。旧坑道の安定した気温がチーズ造りにもいいのだとか。

 値が上がったことで、生産者たちもやる気になっているし、お父様もチーズの増産に補助金を出して援助している。

 馬王の出荷も順調で、ジンさんとラムさんの腕が上がってきて一級酒の出荷が増えたことで、ロックスフォール騎士爵家の収益も増えている。

 何せ、酒工房はロックスフォール騎士爵家の直営だ。初期投資分と二人の人件費と材料費を差し引いた分が、収入に直結するのだから、馬王の品質がよくなったほうが儲かるのだ。しかも主材料は馬麦なので、何もせずに勝手に増えていく。最近は馬の餌にする馬麦まで馬王にするものだから、馬たちの餌に困っているらしい。

 俺の特級酒は貴族用として、ドンドン値上がりしているらしい。ただ、お父様は据え置きの六千ガゼルで商人たちに卸している。貴族たちが馬王を手に入れるため、勝手に値を吊り上げているだけらしい。それでも商人の儲けが大きくなっているので、ウハウハのようだ。

 最近は商人に会うと、揉み手をして挨拶される。以前、モンスターの素材を買い叩かれそうになった商人などは平身低頭の勢いで挨拶をしてくるのだ。

 そんな馬王だが、特級酒の半分を出荷せずに寝かせている。これが特級酒の値を上げている要因でもあるが、寝かせることでより美味しい酒になるのだから、やらない手はない。

 五年物や十年物になれば、それだけ熟成されて美味しいのだ。その頃には、俺も酒を飲めるようになっているだろうか。

 ちなみに、寝かせている酒は本当に寝かせるだけでいい。むしろ動かすとよくないらしい。だから、安静にさせて寝かせている。


「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトアロー!」

 シャーミーの詠唱が終わり、光の矢が飛翔する。

 モンスターは直径一メートルの大きな目玉から手が数十本出ているハンズアイ。かなり気持ち悪いモンスターなのだが、こいつの素材は貴重な目の薬になるということで、結構高値で引き取ってくれる。たくさん遭遇すればいいのだけど、あまり出遭わないモンスターなので、余計に引取価格が高くなるのだろう。

 ライトアローは目の外周部に当たった。

「キシャシャッ」

 目玉なのにどうやって声を出しているのだろうか?

 それはともかく、ベンが突撃する。

「オリャーッ!」

「キシャシャッ」

 盾を構えたまま体当たりし、ハンズアイをのけぞらせる。そこに俺の矢が当たる。

「キシャシャッ」

 ハンズアイの腕がベンを絡み取ろうとするが、モーニングスターで殴り払った。

「キシャシャッ」

 ハンズアイが溜めに入った。これは目玉から熱線を放出する予備動作だ。

「キシャシャッ」

「ビームがくるぞ!」

「おう!」

「はい!」

 俺が叫ぶと、二人が反応する。

「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトバリア」

 ほぼ同時に俺たちとハンズアイを隔てる光の防壁が発動した。

 ハンズアイの放った高熱のビームが高速で迫り、ライトバリアに激突する。

 ライトバリアに防がれたビームが拡散して飛び散った。

 周辺の温度が上がるほどの熱線を、シャーミーのライトバリアが防いだ。

「今だ!」

「あいよ!」

 俺とベンが飛び出す。俺は弓から剣に持ち替えて左から、ベンはモーニングスターに炎を纏わせ右から同時に攻撃した。

 ベンの加護は炎の戦士だ。レベルが上がったことで、スキル・炎撃が使えるようになっている。

 俺はレベルが上がってもスキルが増えない。ちょっと羨ましい。

 ハンズアイは熱線放出後の硬直時間がある。ここで一気に決める! 俺は目に剣を突き刺した。

 ベンもモーニングスターを目に叩き込んだ。

「死ねや、この野郎!」

「キシャ……」

 浮いていたハンズアイが地面に落ち、青と黒の目の周囲が白く濁る。

「よし、倒したぞ!」

 ここからは時間との勝負だ。俺は短剣を取り出して目玉の中央部の透明な部分を剥ぎ取る。

 濁りは徐々に広がり、最後は目玉の中心部へと至る。その時間は三分もないので、すぐに素材を採取しないといけないのだ。

「トーマ、袋よ」

「あいよ」

 基本的に荷物は俺が持っている。戦闘の時は背負っていた背嚢を下ろすので、シャーミーが管理してくれる。

 布で目玉の素材を包んで麻袋に入れ、さらに背嚢に入れる。ハンズアイの素材は柔らかい透明な部分で、破損しやすい。だから繊細に扱わないといけないんだ。


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