第19話 七歳の酒造り
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第19話 七歳の酒造り
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お父様はさっそく動いた。まず町の人を屋敷に集め、酒盛りをすることにしたのだ。
ただ飲みたいだけではないと思う。……そうですよね、お父様。
「な、なんだこの酒は!?」
「美味すぎるぞ、これ!」
「酒精は強いが、飲みやすいな!」
俺はドアの隙間からみていたが、集まった人に馬王は好評だった。
「美味いだろ! この酒を造る気はないか?」
「「「え?」」」
「アハハハ。これはうちのトーマが造った酒だ。名づけて『馬王』だ!」
「「「馬王!?」」」
物騒な名前だが、原料が馬麦だから馬王ってだけで、内容は全然物騒ではない。あー、でもアルコール度が高いので、飲み過ぎには注意が必要だ。
「し、しかし、本当にトーマ様が?」
「ああ、あの子は天才だ。親の贔屓目じゃないぞ。本当に天才なんだよ」
天才は勘弁してほしい。それはさておき、大人たちは馬王を飲んで、この酒が造れるならとやる気になった。
翌日、二日酔いの大人たちが、酒造りをする人選を進めた。皆、青い顔をして時々口を押えていたのは、申しわけないけど笑える光景だった。
「大工のバーズには、二種類の樽を造らせている」
酒を仕込む大きな五斗樽と、販売用の一斗樽だ。坑道に持ち込んで作業をするには、五斗樽が限度だと判断したのだ。
それから坑道も使えるものと使えないものがある。主に広さの問題だ。俺が入ったことのある第三坑道を含め、お父様は五カ所を選定した。俺もその坑道に入って、意見を言った。
その際に坑道の壁を変換で頑丈な壁にした。これ、結構マナを使ったけど、そのおかげで五つの坑道全部の補強を終えた時にレベルが十も上がっていた。最近、こんな短期間でレベルが十も上がることはなかったので、とても嬉しい。
次に馬麦を栽培することにした。産業にするには、それなりの量が安定的に必要になる。だから山の木を伐採して、そこで馬麦を栽培する。
木は薪になるし、馬麦は手をかけなくても勝手に育ってくれるから、場所を確保してあげるだけでいい。
幸い、冬は農閑期で村人が労働力として使える。村の男たちの半分以上が参加して酒造りの土台を築いていった。
春になる頃には、坑道の入り口に頑丈な扉がつけられた。そして坑道の前に仕込み用の工房が建てられた。
お父様は気合が入っている。費用は大丈夫なのだろうか。かかった費用を馬王で回収できるように、俺はお父様のためにがんばろう。
あ、ついでに俺は七歳になった。
この世界では、一年は十二カ月で、一カ月は三十日だ。一月は
そして一月一日になると、皆等しく年齢が一個上がる。誕生日という考えはなく、生まれた年を基準(ゼロ歳)に、あとは一月一日になった年を取るシステムだ。だから、十二月三十日に生まれた人は、生後二日目で一歳になる。
今日は馬王の仕込みを行う。酒造りは秘伝にするというお父様の方針で、仕込みも二人にしか教えないことになった。そんなことをしなくても酒麹はアシュード領専用だから、他では酒を造っても毒酒にしかならないんだけどね。
酒造りの人員に抜擢されたのは、瑠璃色の髪と青い瞳をしたジン(二十五歳)さん。彼は元兵士で、モンスターとの戦闘で怪我をして戦えなくなった人だ。日常生活に怪我の影響はあまりないが、戦闘ができるほどでもなかったので、これまでうちの門番をしていた。俺もよく知る人だ。今回、お父様の勧めで酒工房の責任者をしてくれることになった。
あと、赤毛茶目のラム(二十二歳)さんは女性だけど、無類の酒好きということで熱烈志願してくれた人だ。女性としては大柄で背は百八十センチメートルくらいある。
ジンさんが百九十センチメートルくらいの大柄なので、並んでいたらラムさんが華奢に見えないこともない。どちらにしても俺は二人を見上げている。
「これから馬王の仕込みを説明しながら実践します。質問はその都度聞いてください。俺も手を止められない作業以外は、その場で答えます」
「「はい」」
「最初は馬麦の殻を取ります。殻が残っていると、出来上がった酒に馬麦の雑味が出ますので、大事な工程です」
「「はい」」
殻を取るために麻袋に入れて棒で叩く。馬麦を砕かないように、絶妙な力加減が必要だ。
二人にも同じように麻袋を叩いてもらう。
「ラムさんは力を入れすぎですね。これでは使えません」
「す、すみません……」
「最初はこんなものです。もっと肩の力を抜いてやってみてください」
「はい」
「ジンさんはもう少し力を抜けばいい感じになると思います。この調子でがんばってください」
「はい!」
ラムさんは粉々にしていたが、ジンさんは力の加減が上手いように見える。
共に五袋やってもらったが、ジンさんは合格点を与えられるくらいだ。ただ、ラムさんはどうしても粉々になってしまう。
「ラムさんは棒で叩かず、手で叩いたらどうかな?」
「やってみます!」
グーで殴ったものは棒よりはマシだけど、それでも使い物にはならない。次はパーで殴ってもらうと、なんとか使えるくらいになった。そこで麻袋を二枚重ねにしてパーで殴ってもらったら、いい感じになった。
「できなければ工夫してできるようにすることができます。諦めず、創意工夫をすることでいいものを造れるはずです」
「「はい!」」
「次は馬麦を蒸す工程になります」
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