三章

第17話 酒造り

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 第17話 酒造り

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「ふわ~~~」


 お父様が起きてきた。

 二日酔いの酷い顔だ。


「飲みすぎですよ」

「たまにはいいじゃないか……いたた……」


 頭を押さえて椅子に座った。


「今日は朝食はいい。それより迎え酒を頼む」

「旦那様、いけませんよ。スープだけでも飲んでください」

「食欲ないんだ」

「では、迎え酒もなしです」

「そこをなんとか」


 お父様はテーブルに突っ伏して手を合わせた。


「もう……」


 お母さんは困った顔をしたけど、結局お酒を出すことにした。


「そーいえば、昨日の袋の中身は胡椒だろ? あんな高級なものをどうしたんだ?」

「前の家にいる時にもらったのを持っていたんです」

「そうか、いいものをありがとうな。おかげで肉がさらに美味しくなったよ」


 お父様は本当に美味しかったと微笑んだが、次の瞬間、口を押えて食堂から出ていった。

 今日は一日大変だろうけど、がんばれー。




 今日は村の中を散歩している。


「トーマ様。散歩ですか?」

「はい。村の中を見て歩いてます」

「村の中はいいですが、外に出たらダメですよ。モンスターがいますから」

「はーい」


 肉祭りで、ベンが俺をダシにして肉を優先的にもらっていたおかげで、多くの村の人が俺の顔を覚えてしまった。


 外交的じゃない俺も、話しかけてくれると喋ることはできる。気軽に声をかけてくれるのは、助かっている。

 そんな感じで歩いていると、岩肌にいくつも穴が開いているのが見えた。


「あれはなんだ?」

「あれは昔の鉱山の跡だぜ」

「うわっ!?」


 ベンが声をかけてきたから驚いた。


「いつから?」

「大工のバーズさんちの前くらいからだ」


 三十分くらい前!?

 小さな村だけど、歩いて回ったらそれなりに広いんだよ。

 ベンは忍者か!?


「全然気づかなかったよ」

「ハハハ。悪戯するのに、いつも気配を消しているからな」

「悪戯なのに、無駄に気配を消すの上手いし!?」

「たかが悪戯と思うなよ。こっちとら、全力でやってんだぜ」


 威張ることではないな。


「それはそうと、あれは鉱山だったの?」

「おう。昔は鉄とかが取れたらしいぜ」

「へー」

「ついてこいよ、中を見せてやるぜ」


 ベンは行動的で、手を引いていかれた。

 些か強引だが、悪意はまったく感じない。


「ここを通るんだ」


 木の塀が壊れているところをくぐる。


「ベン、遅いぞ」

「おう、待たせたな!」


 八人の子供たちがそこで待っていた。

 いや、ここが遊び場なんだ。


「お前ら。今日は穴に入って探検だ!」

「「「おーっ!」」」


 ベンはいつの間には木の棒を持っていて、高らかと掲げた。


「ここだ」


 第三坑道という壊れかけた看板がある。


「おい、シャーミー。光を頼むぜ」

「はーい」


 俺より少し上、八歳くらいのピンクゴールドの髪で藍色の瞳をした子が、魔法を使う。


「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライト」


 光の玉が浮かび上がり、坑道内を照らした。

 シャーミーの加護は光の魔術師だから、スキルに光魔法があった。ライトは光魔法の一つだ。


 ちなみに、ベンの加護は炎の戦士、ランクはC、属性は火だ。


 また、十二神の名前はこのようになっている。

 主神・豊穣神(地神ちしん)ニルグニード、光神こうしんライトルイド、闇神あんしんダークラン、火神かしんフレイアス、水神すいじんアクアリール、風神ふうじんウィンディア、戦神せんしんノマス、魔法神まほうしんマジクール、時間神じかんしんクロッカス。

 そしてあのクズたち空間神くうかんしんティライア、雷神らいじんドーラス、技巧神ぎこうしんシャイリーだ。


 俺を合わせて十人が第三坑道に入っていく。

 坑道は外より気温がやや高い。外気は十度くらいで、坑道内は十五度くらいか。


「なあ、ベン。坑道の中には何があるんだ?」


 俺くらいの子供が質問した。


「坑道だから、鉄でも落ちているんじゃないか?」


 知らんのかい!?


「ベンは坑道に入ったの何回目?」

「今日が初めてだ」


 なんか慣れているから、何度も入った経験があるのかと思っていたよ。


「石ばかりでつまんなーい」


 十分も歩くと、そんな声が聞こえてくる。


「よし、探検終了!」


 諦めが速い!

 その後、坑道を出た子供たちと追いかけっこや、隠れんぼして遊んだ。ちょっと童心に返った気分だった。





 今日は朝の剣の稽古を済まし、すぐに変換を試すことにした。


 材料は安定の馬麦。作るのはお酒!

 お父様は、肉祭りの日は夜遅くまで飲んで帰ってきた。

 毎晩晩酌をしていることから、お父様はお酒が好きなのだと思う。だから、お酒を贈ろうと思うんだ。


 が、できなかった。

 どうもお酒を造ることはできないらしい。


「残念……」


 でも、お父様にお酒をプレゼントしたい。

 どうしたものか……。


「そうだ!」


 酒が直接作れないなら、酒麹を変換で創れないだろうか。

 やってみたら、出来た!


 ・馬麦(一キログラム)を馬麦用酒麹(百グラム)に変換 : 消費マナ五十ポイント


 俺が変換に望んだのは、馬麦でも美味しい酒にできる酒麹だ。

 俺に酒造りは分からない。だから、蒸した馬麦に酒麹を振ってしばらくすれば酒になるというものを頼んだ。

 この条件でできた酒麹だから、多分大丈夫なはずだ。


 まず用意するのは、樽!

 樽は木工のバーズさんに三つ作ってほしいと頼んだ。俺が入れるくらい大きい四斗(七十二リットル)樽にしてもらった。


 そして子供たちを集めて馬麦を集めた。


「おい、こんなものを集めてどうするんだ?」

「ちょっと考えがあるんだ」


 報酬は飴だ。子供たちは喜んでいた。


 馬麦の殻をある程度取るために、麻袋に入れて棒で叩く。あまり叩きすぎると粉々になるから絶妙な力加減が必要になる。


「まあ、美味しい飴をもらったからな、しっかり働くぜ。なあ、皆!」

「「「うん!」」」


 子供たちには、飴で餌付け済みだ。

 飴といっても水あめね。変換で創れるんだよ。


 ・馬麦(一キログラム)を水あめ(五百グラム)に変換 : 消費マナ五百ポイント


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