第16話 冬の肉祭り

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 第16話 冬の肉祭り

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 モンスターの解体の手伝いをしていたら、服が血だらけになっていた。

 それを見たお母さんは俺が大怪我をしたと思い卒倒しそうになった。おかげでその日はこんこんと説教をされた。


 次の日、朝から村人たちが祭りの支度をしている。

 そんな中、俺は剣の稽古だ。日課ということもあるが、昨日の血だらけ事件のせいで、午前中は外出禁止になったのだ。


 お父様は何日も山林の中で野営をしたのに、疲れた顔一つ見せずに祭りの現場監督に出かけた。ズルい……。




 昼過ぎ、俺はやっと外出が許された。

 肉祭りというのだから、肉が食える。ベンも鱈腹食えると言っていた。

 そこで俺は馬麦を胡椒に変換した。


 ・馬麦(一キログラム)を胡椒(五グラム)に変換 : 消費マナ三百ポイント


 すごく効率が悪い。だが、道端に生えている馬麦ならいくらでもある。

 マナが続くかぎり胡椒に変換した。


 少しだけマナが残ったので、眠気は我慢できる。

 胡椒は砕かれた状態ででてきた。粗挽きだ。

 それを袋に入れて祭りへと向かった。


 村の広場の中心に、木が組まれ火がつけられている。キャンプファイアだ!

 冬でもこういった火があると、温かい。

 大人の男たちはすでに酒を飲んでいる。お父様もその中にいて、顔を赤くしている。


「お、トーマか! 家を出してもらえたんだな」


 まだ祭りが始まってないのに、完全に出来上がっている。


「もうすぐ肉が運ばれてきて、焼いて配られる。好きなだけ食っていけよ」

「そうします」


 そのために昼は食べてない。

 今日は食って食って食いまくるぞ!


「ホホホ。領主様のご子息様ですかな」


 昨日解体を指示していた、白髪の老人だ。


「おう、俺の息子のトーマだ。トーマ、この爺さんは村の長老だ」

「トーマといいます。いつも父がお世話になっております」

「これはご丁寧に。ワシはルードと申します。以後、よろしくお願いします」


 長老は顎鬚を撫でる。まるでテレビの時代劇で見た水戸の御老人のような雰囲気がある。


「おい、トーマ! 肉がきたぞ!」


 唐突に腕が引かれる。昨日知り合ったベンだった。


「こら、ベン! 領主様のご子息になてことをするのだ。この莫迦者が!」


 長老が慌てて『何してんだよ、お前!』と言った感じに怒った。


「トーマ、お前、領主様の子供なのか?」


 ベンは首を傾げている。

 大柄でも子供だから、なかなか似合うな。


「そんな感じかな」

「マジかー」

「え、でも、今まで通りでいいからね」

「いいのか?」

「うん、いいよ」

「よし、ならいくぞ!」

「うん。お父様。いってきます」

「おう! 食いまくれ!」

「はい! あっ! これ、使ってください」

「これはなんだ?」

「美味しいものです」


 俺は胡椒の入った袋をお父様に渡し、ベンと走り出す。


「まずはあそこだ。あそこはメタルベアの一番いい部位を焼いているだぜ。ちゃんと調べはついてるんだ!」


 どうやらベンは一生懸命解体や祭りの支度を手伝っていたようだが、それはどこでどんな肉を焼くかを調べるためだったようだ。

 このちゃっかりさは、俺にはないものだな。


「おっちゃん! いいやつくれ!」


 すでにその前には人が並んでいたが、ベンはお構いなく横入りをした。


「おい、ベン」


 俺がベンの服を引っ張るが、同時に肉を焼いていた人が怒鳴った。


「こら! ちゃんと並ばんか、ベン!」

「そんなこ言っていいのか? こいつは領主様の子供のトーマだぜ」

「何!? 領主様のお子さんか。ちょっと待ってろ!」

「いえ、ちゃんと並びますから」

「子供がそんなの気にするもんじゃないぜ」


 ええーーー。ベンには怒鳴っていたのに……。


「このベンはいいんだよ。いつも怒鳴られているからよ」


 それはそれでどうなんだろうか?


「あいよ。いいところだ。熱いから落とすなよ」

「おう。あんがとよ、おっちゃん」

「すみません」

「ベンはいつもちゃっかりしてやがるな」


 俺は並んでいる人にも謝ったが、皆さん『いいよ』と言ってくれる。

 お父様が村人に慕われているから、俺がこのような扱いを受けることができるのだろう。


「うっめーっ! こんな美味い肉は初めてくったぜ!」

「毎年獲れるんじゃないのか?」

「メタルベアのような大物は何年に一度狩れたらいいみたいだぜ」

「そうなんだ……うまっ!?」


 メタルベアの一番いい肉がどの部位かは知らないけど、脂が乗っているのにしつこくなく、その脂がとても濃厚な旨味と甘味を出している。


「ああ、めちゃくちゃうめーな! 今度はそこにいくぞ」

「あ、おい」


 ベンは一気に肉を腹に収め、次の焼き場へと向かった。

 せっかくの美味しい肉なんだから、もっと味わって食えばいいのに。


「おばちゃん! 領主様の子供のトーマだ。ライトニングバードの足が食べたいんだってよ!」

「あら、領主様のところのトーマ様かい。分ったよ、持っておいき!」


 ここでも並んでいる人がいるのに、最優先でもらってしまった。

 並んでいる人にペコペコ頭を下げて謝ると、やっぱり『構わない』と言われる。


 その後、他の子供も俺たちに合流し、並ばずに肉をもらう子供集団が出来上った。


「うっぷ……さすがに食い過ぎた」


 数えきれないほどの肉を食べた。どれも美味しかったけど、最初に食べたメタルベアのいい肉が一番美味しかった。


 腹を擦りながらお父様のところにいくと、大笑いして木のジョッキを傾けていた。村人と気さくに酒をのみ大笑いするお父様が、俺は好きになった気がした。


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【個体名】 トーマ・ロックスフォール

【種 族】 半神デミゴッド(ヒューマン・神族)

【情 報】 男 6歳 健康

【称 号】 ×××の使徒

【ランク】 G

【属 性】 神

【加 護】 変換の神(未覚醒)

【レベル】 68

【スキル】 変換・レベル2

【ライフ】 826(2,480)

【スタミナ】 848(2,546)

【マ ナ】 904(2,712)

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