第15話 モンスターの解体イベント
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第15話 モンスターの解体イベント
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今日もいつものように昼食を摂ったあと、変換を鍛える。
今回は初めての試みをしようと思う。用意したのは、軟膏の素材になる薬草、馬麦、そしてどこにでも転がっている石だ。
馬麦というのは、人が食べないような雑穀で、大食漢の馬しか食わないと形容されるほど不味い麦の一種である。
数粒食べてみたが、アクが強いのか舌がしびれるような苦さだった。
まずは薬草を―――変換!
皿の上にサラサラと少し黄みがかった白い粉が現れた。成功のようだが、一応確かめるか。粉を指の先につけ舐める。
「うん、しょっぱい。これは間違いなく塩だ」
天秤で重さを測って記録をつける。
馬麦と石でも試してみたら、塩に変換できた。ただし、結果には大きな差が出た。
・軟膏の素材になる薬草(一キログラム)を塩(百グラム)に変換 : 消費マナ百ポイント
・馬麦(一キログラム)を塩(二十グラム)に変換 : 消費マナ二百ポイント
・石(十キログラム)を塩(五グラム)に変換 : 消費マナ三百ポイント
おそらく物の価値として高いもののほうが、変換に必要なマナ量や、変換後の結果がよくなるのだろう。
今の俺のマナの量では、七十キログラムの石を三十五グラムの塩に変換するのがやっとだ。変換はとにかく多くのマナを消費する。
俺は屋敷の厨房に忍び込み、塩甕の中に変換した塩を入れておいた。
今日はいつもより寒い。雪が降るほどではないが、野営をしているお父様が心配だ。風邪などひかなければいいのだが。
寒くても俺の日課は変わらない。午前中は剣の稽古だ。剣を振っていると、寒くても汗が噴き出す。
無心で振り続けていると、門の辺りが騒がしくなった。
「お父様!」
「おう、トーマ。今帰ったぞ」
ニカッと笑うお父様の後ろには、モンスターが山のように積まれた大八車があった。
「お帰りなさいませ」
「剣の稽古をしていたのか。偉いぞ」
寒いからといって剣の稽古をサボっていたら、向上はしない。普通のことをしても、お父様は褒めてくれる。
「お母さんを呼んでくるね」
「今回は大猟だぞ」
「はい」
俺はお母さんを呼びに、玄関に走った。が、俺がドアを開ける前にお母さんが出てきた。
「お母さん、お父様が帰られました」
「旦那様はご無事だった?」
「はい。元気そうでした」
「よかったわ」
お母さんと一緒にお父様を迎え、兵士の人たちにも労いの言葉をかける。すぐに村人たちが集まってきて、お父様たちが狩ってきたモンスターを運び出していく。
村の子供たちが好奇心旺盛な目をしてついていくので、その中に混ざる。
「おお、これは立派なメタルベアじゃ」
村の長老っぽい人が、目を丸くするのは巨大なクマ型魔獣だ。今回の獲物の中でもひと際目を引く巨体である。
屋敷の横に流れている川の河原に獲物が持ち込まれて解体が始まった。
「このメタルベアは俺に任せろ!」
筋肉隆々の中年男性がポージングする。なぜポージングするのかは不明だ。
「おお、鍛冶師のボーマンか。この大物はお主に任せたぞ」
「おう!」
村人たちは慣れたもので、手際よく解体をしていった。
情報閲覧で見てみたんだが、あのメタルベアのレベルはなんと二百七十もあったようだ。今の俺が遭遇したらひとたまりもない、まさにモンスターだ。
基本的に内臓は現地で捨て、血抜きもされている。運搬には少しでも軽いほうがいいという理由と冬でも内臓は腐りやすいからだ。それに血抜きをすれば、肉の臭みが抑えられる。
俺も解体を手伝った。といってもナイフを持って解体するのではなく、切り取られた肉を運ぶ役目だ。他の子供たちも同じように肉を運搬している。
「お前見ない顔だな」
声をかけてきたのは、わんぱくという形容詞がしっくりくるような、焦げ茶色の髪を短く切った大柄な少年だ。
「最近、引っ越してきたんだ。トーマっていう、よろしく」
「おう、俺はベンだ。鍛冶師ボーマンの息子だ」
たしかにボーマンさんと紫色の瞳が一緒だし、口元が似ている。
ベンは十歳で言葉遣いは乱暴だが、無暗に暴力を振るう子供ではなかった。ガキ大将の気質だが、子供たちをまとめて肉を運んだりし、大人の手伝いを率先してやっている。
「この肉はこれからどうするんだ?」
「ほとんどは燻製にするのさ。そのほうが日持ちするからな」
春から秋にかけて、モンスターはこの村に近づくことは少ない。もちろん、まったくいないわけではないが、今回のメタルベアのような大物は山の奥やイクスタン大森林にいて、冬になると村に近づいてくるのだ。だから狩りの獲物が少ない時期のために、燻製にして保存食にする。
「でも、明日は肉祭りだ。毎年領主様が冬の最初に狩った獲物を分けてくれるんだ」
「肉祭り!? それは楽しみだな!」
「ああ、肉を鱈腹食ってやるぜ!」
俺は前世を含めて祭りにいったことはない。そんなことを許される環境じゃなかったのだ。初めて祭りに参加できると思うと、今からワクワクする。
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