第13話 新しい暮らしの始まり
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第13話 新しい暮らしの始まり
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ロックスフォール家に料理人はいない。メイドのサーラさんが料理をし、孫のララがそれを手伝い、執事のジョンソンさんが配膳をする。
ロックスフォール様が当主席に座り、俺とお母さんはロックスフォール様を挟む形で向かい合って座った。
「ライトスター家の食事に比べると恥ずかしい限りだが、出来る限りの歓待をさせてもらうよ。ようこそ、我がアシュード領へ」
食卓に並ぶ料理は飾りっ気のないものだが、俺としてはこっちのほうがありがたい。
ライトスター家は離れでも料理人がいて食事を作ってくれたけど、なんというかフランス料理のようで食べるのにマナーがどうのと肩が凝るのだ。
「いえ、住む場所と食べるものを与えてくださったことに感謝します」
「ありがとうございます」
元奴隷として過酷な環境で過ごしていたお母さんにとって、こんな大きな家とちゃんとした食事があるだけでありがたいことなのだろう。
俺も赤ん坊の時のことを思うと、天と地ほどの差だから不満なんてない。
「まだ正式に手続きはしてないが、二人は私の家族なのだ。そんなに改まった口調でなく、もっとフランクに接してほしい」
「……分かりました。これから、妻として接していきます。ただ、口調はすぐに直せませんので、しばらく猶予をください」
「分かったよ。トーマ君、いや、トーマも私の息子になるのだ。ロックスフォール様ではなく、お父さんと呼んでくれ」
いきなりお父さん呼びは難しいと……。
「……お父様でお許しください」
「仕方がないな。いずれはお父さんでね」
「努力します」
「よし、食べよう! 豊穣の女神ニルグニード様に感謝を」
「豊穣の女神ニルグニード様に感謝を」
ニルグニードは豊穣神であり、主神だ。このクルディア王国では多神教であるニルグニード教が広く信仰されており、ロックスフォール様もそのようだ。
俺にとってこの世界の神は、『名を奪われ、忘れ去られた者』様しかいない。他の神はあのクズの仲間だと考えている。だから、俺はニルグニードに感謝の言葉を口にしたことはない。
「いただきます」
俺が口にするのは、この一言だけである。ニルグニードへの感謝はなくても、食料を育てたり狩ってくれた人には感謝している。それに、俺の腹に収まる食材へも感謝している。
鳥の丸焼きを執事のジョンソンさんが切り分けてくれた。香草で臭みを消し、塩味だけの鳥肉だけど、とても美味しい。
「この肉は美味しいですね」
「それはライトニングバードという魔鳥の肉だ」
「え、魔鳥の肉ですか?」
「ライトスター侯爵家ではモンスター料理は出なかったようだね。ただ、ここではモンスターの肉を食べるのは普通なんだ。だから慣れてほしい」
「慣れるも何も、あの屋敷で食べていた肉よりずっと美味しいです」
「それはよかった。ささ、たくさん食べてくれ」
身は引き締まって弾力があるのだけど、噛めば噛むほど肉汁が出てくるんだ。しかもその肉汁がとても甘く、塩味と相まって絶妙なハーモニーを奏でている。
「明日神殿にいき、正式に結婚と養子縁組の手続きをするから、そのつもりで頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
「はい」
ロックスフォール様……お父様は本当にいい人そうだ。お母さんを幸せにしてくれるだろう。よかった。
翌日、俺たちは神殿に向かった。
小さな村の神殿だから小さな建物だが、ちゃんと手入れされている。庭の草もむしられており、村人の信仰心は篤いようだ。
神殿は石造りの建物だけど、日本の神社に似ていた。なんだろう、雰囲気が似ているのかな?
神殿の中には神の像がある。全部で……十三。主神ニルグニードの他に、大神と言われる神は十一だ。十三体の像があるのはなんでだ?
「私とアリューシャは、手続きをしてくる。トーマもくるかい?」
「ここで待っています」
お父様とお母さんは神父と一緒に奥へ入っていった。
他に祈りを捧げている村人が四人いるが、彼らはお父様に軽く会釈して祈りを続けた。残った俺は像を一つ一つ見ていく。
「ちっ」
空間神ティライア。こいつも大神だ。ライトスター侯爵家にあった書物で知っていたが、改めてその像を見ると怒りが込み上げてくる。しかもこの像はあの憎たらしいクズによく似ている。俺の心の底から憎悪が湧き上がってくるようだ。
「待っていろよ。必ずぶっ飛ばしてやるからな」
誰にも聞こえないように、憎しみのこもった言葉を呪詛のように呟いた。
他の神の像も見ていくと、十三番目の像は顔がない。主神と大神の像しかないはずなのに、十三の像がある。そして顔がなく……神の名を刻んでいるはずの台座も削られていた。
この像が『名を奪われ、忘れ去られた者』様の像なんだと察した。よく分からないが、そう思うんだ。
まだレベルは百になっていない。だけど、この像を前に俺は跪き祈りを捧げた。
変換を使うだけでは、レベルは上がりにくくなっている。だけど、レベル百は通過点でしかない。お父様のレベル三百二十を見てしまうと、そう感じずにはいられない。
「トーマ、帰るわよ」
「はい」
今日は挨拶です。レベル百になったら、またきます。
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